古川侑利&渡邊佑樹が戦力外…板東湧梧にとっても同学年で「単純に寂しい」
4年ぶりに、日本一への挑戦権を得た。ソフトバンクはクライマックス・シリーズのファイナルステージで日本ハムに3連勝。アドバンテージの1勝も含めて、無傷で日本シリーズ進出を決めた。ホークスの圧倒的な強さが目立つ一方で、その舞台に立てずに悔しさを味わっている選手もいる。板東湧梧投手も、その1人だ。ともに戦った仲間たちの戦力外に「他人事じゃない」と、表情を引き締めて語る。不安なのは選手として期待されなくなり、ファンからも「忘れられる」ことだ。
今季はルーキーイヤーだった2019年以来となる1軍登板なしに終わった。オープン戦では3試合、計8イニングを投げて無失点も、開幕ローテーションには入れず。ウエスタン・リーグでは14試合に登板して3勝2敗、防御率3.88という成績に終わった。「悔しい1年でした」。リーグ優勝、日本シリーズ進出を決めた1軍を見ていても「うれしいって感情はほとんどないです。活躍した仲間が喜んでいる姿は良かったなと思いますけど、当事者というか……。外から見ている感じです」と当然、悔しい気持ちは強い。
今月7日、球団は9選手に対して来季の契約を結ばない旨を通達した。古川侑利投手、渡邊佑樹投手は板東にとっても同学年で切磋琢磨してきた選手だ。SNSで戦力外通告の一報を知ったといい、「ずっと2軍で一緒に過ごしたメンバーで、同級生。一緒にご飯も行っていました。単純に寂しいです」と胸中を明かす。
夏頃、広島との2軍戦のために由宇に遠征した。そこで1995年組の「同級生会」が開催され板東、古川、渡邊佑、鍬原拓也投手、齊藤大将投手、椎野新3軍打撃投手兼3軍スタッフが集まった。「普通にみんな仲良いですよ。そのメンバーだと、一番しゃべるのはクワ(鍬原)じゃないですかね」。高卒や大卒、移籍組など、それぞれが紆余曲折を経てここにいる。プロとしての栄光も、悔しさも知っているメンバーで、野球談義には花が咲いた。同学年だけにお会計も「割り勘だったんじゃないですかね」と笑顔で明かす。ともに歳を重ね、1軍を目指してきた仲間たちだった。
18日に板東は、古川と渡邊佑にファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」で、顔を合わせた。「戦力外になってからは初めて会いましたね。2人も前を向いて、いつもと変わらないように接していましたし、今後の話とかもしました」。自分はユニホーム姿で、去っていく盟友たちはスーツを着ている。12月には板東も29歳になる。キャリアを考えても、危機感を抱く出来事だった。
「僕も他人事じゃない。今後どうしていくのか、この年齢になるとみんなそういう思いがあると思う。はい。他人事じゃないと思います」
ウエスタン・リーグでの最後の登板は9月25日の阪神戦(鳴尾浜)で、3回1/3を投げて3失点。その前は18日の同戦(タマスタ筑後)で2回2/3を5失点と、シーズン終盤に苦しい投球となった。「投げて、苦しくて、何も変わらなかった。自分でも、最後の方のゲームが本当に苦しくて、ここにいていいのか、これで投げていても進まないんじゃないかって」。今シーズンの最速は145キロ。今も自分との戦いは続いている。
10月以降も「みやざきフェニックス・リーグ」には登板していない。首脳陣との話し合いの末、4軍に合流して練習に集中することになった。斉藤和巳4軍監督とも「毎日話はさせてもらっています」という。その上で「『1回ノースローにしたらどうや』って話もしました。僕の話も聞いた上で、そういう意見をくださる。そっちのチャレンジもありかなとは思っていますし、和巳さんからも勇気をもらっています」。肩も肘も、どこにも痛みはない。だからこそ投げないという選択に「挑戦してもいい」と、打開策を探し続けている。
さまざまなコーチやスタッフが手を差し伸べてくれる。投げやりになりそうな時でも、自分を見捨てない人がいるから、諦めずに前だけを向いていられる。「こんな感じでもずっと諦めずに見てもらっています。めっちゃ映像を見てくださったり。毎日話もしています。めちゃくちゃありがたいですね。自分では気づけなかったことに気がついたので」と感謝しかない。抱いている不安は、プロ野球選手として期待されなくなってしまうことだ。
「支えてくれる人たちのありがたみは改めて感じます。苦しい時、忘れられるんじゃないかという不安があるじゃないですか。そういう時に応援してくれる人、気にかけてくれる人はやっぱり本当にうれしいというか、支えになります」
忘れられる――。2022年に1軍で3本塁打を放った渡邉陸も今季1軍出場なしに終わり「自分でも感じるんですけど、応援してくれる人もちょっと減ったな、みたいな」と明かしていた。同期入団でもある渡邉陸の言葉には板東も「わかりますね」と共感する。「リアルですよね。この職業柄、1番寂しいかもしれないですね。ファンに忘れられるっていうのは」。応援してくれる人たちの思いに、今はただ応えたい。
「毎日というか、いろんな人に声をかけてもらって、差し入れもいただいて、サインを書かせていただく。こんな(状態)になってもまだ応援してくれる人がいるというのは感じています」
迷いも、危機感もある。そんな思いにも真っすぐに向き合って戦う。絶対に諦めない。
(竹村岳 / Gaku Takemura)