並んだ缶酎ハイ、食べかけのポテチ… 和田毅が若手を集って“宅飲み”を開いた理由

ソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】
ソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】

前田純、大山、木村光を自室に招き入れ…和田が開いた“宅飲み”祝勝会

 テーブルの上には冷えた缶酎ハイにおつまみ、ポテトチップスが無造作に置かれ、ざっくばらんに話が進んだ。さしずめ学生の「宅飲み」のような光景――。ホテルの一室で“祝宴”を開いたのは、43歳のベテラン左腕、和田毅投手だった。

 9月29日の日本ハム戦(エスコンフィールド)。プロ初登板初先発となった前田純投手が6回無失点の好投で初勝利を飾った。この試合、4点リードの7回に2番手で登板したドラフト6位ルーキーの大山凌投手が2四球をきっかけに2点を失うと、なお2死二塁と一発出れば同点の場面でマウンドに上がったのが和田だった。相手打者を1球で三ゴロに仕留める貫録の投球で火消しに成功。前田純の白星を守り切った。

 試合後、宿舎に戻った和田が見せたのは粋な対応だった。前田純、大山、木村光を自室に呼んで、祝勝会を開いた。ベテランらしい気遣いから生まれた、ささやかな祝宴。その経緯と、そこで伝えた思いについて和田が明かしてくれた。

「純がせっかく勝ったんだし、部屋で祝勝会でもあげようかって。大山もああいう形になって、『下(2軍)に行きます』と言っていたので、じゃあ大山も呼ぼうかと。そしたら、たまたま光が廊下に出てきて、『何してるの?』と聞いたら空いてそうだったので、『じゃあ光も来いよ』ってなって。それで4人で飲んでいました。ちょっとの時間でしたけどね」

 ホテルの自販機で売っていた缶酎ハイは「キンキンに冷えていた」。同時におつまみも購入し、「札幌で自分用に買っていたポテチもあったので、それも空けちゃおうかと。本当にささやかですけど」。和田も後輩と過ごす時間を存分に楽しんだという。

 前田純のプロ初勝利を祝う会ではあったが、ベテラン左腕が気になっていたのは大山の「表情」だったという。「もちろん力はあるんだけど、気持ちの部分で『悩んでいるのかな』って見えたので」。そこで説いたのは、プロとしての心構えだった。

「最初はもっと自信を持った顔をしていましたけど。最近はどうしても不安そうに投げていたので。調子が悪いんですって、ずっと言ってて。『そんなことを言っていたら、もっと悪くなるぞ』って。マウンドに上がれば、チームを代表して投げなくちゃいけないので。不調とかそんなの関係ないぞ、と。それができないなら、自分から辞退しなくちゃいけない。『マウンドに上がれません』って言うしかないじゃんって。不調かもしれないけど、自分が一番いいピッチャーだと思ってマウンドに上がらないといけない。技術的なことも少し話しましたけど、気持ち的な部分が一番ですかね」

ソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】
ソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】

 和田自身は22年目の今季、故障の影響もあって8試合の登板にとどまった。シーズン最終盤には「どんな形でもチームの力になりたい」と、プロ初となる中継ぎ要員として1軍に昇格。自身もポストシーズンに向けてアピールを続けねばならない立場であったにもかかわらず、後輩への気遣いは忘れなかった。

「1軍にいる以上、自分だからこそできることっていうのは当然、投げること以外でもはあると思っていたので。それは経験だったりとか、今までこういうことで悩んだよっていうのを伝えたりすることはできるので。そういうことで若い選手が少しでもいい方向に進んでくれればなと」

 ベテランだからこそ、伝えたい思いもあった。「(小久保裕紀)監督もずっと、『日本一に向けてみんなが同じベクトルに向く』と言われている。当然、みんなもそこに向いているんでしょうけど、そこに調子がいいとか悪いとかって感情が出てくる。マウンドに上がったら、打席に立ったら、チームの代表としてそこにいる以上はそんなことは忘れて。個人的なことは二の次だと僕は思っているので。もちろん若い時はそうなりがちだし、僕もなりました。自分のことでいっぱいいっぱいになりがちですけど、若いうちからそういう感情を知って、消化できるようになれば、さらに強くなれると思いますし。メンタルから技術が伸びていくこともありますから」

 和田自身は10月13日のライブBPで左脚に違和感を覚え、投球を途中で切り上げた。首脳陣の見立てでは、ポストシーズンでの登板は絶望的だ。その数日前、ベテラン左腕は「不退転の覚悟」を口にしていた。

「また怪我をしてしまったら、それまでなので。そうなったらCSには絶対に間に合わないですし。状態を上げるには、そこ(怪我をするかしないか)のギリギリを攻めるというか。そこでやっちゃったらそこまでなので。そこはもう、勝負していくしかないので」

 故障を覚悟の上で調整のペースを上げていたのは、なによりチームの日本一に向けて少しでも力になりたかったから。和田自身がマウンドに立つことはできなくても、その魂はチームの中に残っている。4年ぶりの栄光をつかむため、まずはCSを突破するしかない。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)