村田賢一の「人生に欠かせない」モノ 試合前に必携…継承する明大の“伝統儀式”

ソフトバンク・村田賢一【写真:米多祐樹】
ソフトバンク・村田賢一【写真:米多祐樹】

世代を超えて受け継がれるルール…「走ってきたから許す」

 几帳面で実直な性格が行動に表れていた。ドラフト4位ルーキーの村田賢一投手は、解説者としてタマスタ筑後を訪れていたホークスの元コーチ・鳥越裕介さんのもとへ走って向かい、挨拶をした。明大出身の鳥越さんは、村田にとってプロ野球界の先輩でもあり、大学の先輩でもある。村田が“走って”向かったことには明治大学出身者ならではの理由があった。

「明治の基本として、挨拶回りをしっかりやろうっていうのがあります。大学時代でも社会人の相手で先輩方がいらっしゃったら、同じ高校の出身の方でも行きますし、同じ大学の出身の方でも、もちろん行くっていうことは徹底していました。それは変わらず続けていこうと思います」

 明大からプロ野球はもちろん、社会人野球へと進む選手は多い。社会人との練習試合の際に、同大出身の先輩がいれば必ず挨拶に行くことは徹底されていた。ホークスの現役選手で明大出身は村田1人だが、プロ野球界には大勢いる。OBには星野仙一さんや川上憲伸さんなど錚々たる選手たちを輩出してきた名門。世代が違う選手やOBも多くいる中、村田ならではの先輩を把握する方法があった。

「これは必ず試合開始前はポケットに入れています」

 新人の村田にとって“プロ野球選手名鑑”は、必需品になっている。「大谷翔平さんじゃないですけど、僕の中では人生に欠かせない10のアイテムに入りますね、これは」と、試合前には必ず相手チームに明大、春日部共栄高の出身者がいないかを確認するようにしているという。名鑑にはアンダーラインや印をつけるほど、細かくチェックを入れている。そこまで徹底することには、明大出身ならではのルールがあるからだ。

「歩いて行ったらダメです。(先輩が)いたらダッシュです。ダッシュで行かないとダメです」。鳥越さんの元に走って挨拶に向かったのも、明大時代の教えがあるから。「『歩いてきたら許さんとこうと思ったけど、走ってきたから許す』と言われました(笑)」。鳥越さんにも共通の認識があり、同じ伝統を知るからこそ成り立つ会話があった。世代は違えど、今でも受け継がれているルールの1つだ。

 もちろん、選手にとって優先するべきことは練習。タイミングによってはどうしても挨拶に行けない時もある。「挨拶に行けない時は『ちょっと行けませんでした』ということをLINEで送ります。でも忘れちゃった時もあるので、そこは正直に『行けませんでした。すみません』と後でLINEを送ります」。行けなかった、というだけでは絶対に終わらせない。村田の素直な人柄、実直さが滲み出ていた。

 日々、選手名鑑に目を通すことで、高校と大学の先輩選手はある程度は頭に入ってきた。それでも記載されていないスタッフまでは完全にリサーチできていないことに頭を悩ませる。「フロントの方々、スタッフの方々っていうところまではまだまだ把握しきれていないので、その辺はちゃんとやっていこうと思います」。先輩であれば必ず挨拶に行くという習慣があるだけに、同大出身のスタッフまで把握しておかないと気が済まない。

 選手名鑑で確認することは、高校と大学の先輩だけではない。「地区的なところですかね、特に関東の方は結構繋がる部分も多いので、特に関東の人たちはよくチェックしています」。出身地が近い選手であれば、挨拶だけで終わらずに、会話を広げていくことにも役に立つ。そういった意味でも出身地区まで細かくチェックするようにしているそうだ。マウンドだけではなく、日々の細かい努力がきっと、村田が愛される理由にも繋がっていく。

「明大の選手は多いので、その方々と対戦するっていうのは本当に楽しみです」と明るく話す。今はまだ2軍で汗を流す日々だが、キャンプではA組での登板も経験した。これから何度も明大、春日部共栄高の先輩たちと対戦する場面もあるはず。その時は臆することなく堂々と勝負していくつもりだ。

(飯田航平 / Kohei Iida)