台湾で打率.351…正木智也が見つけた光 今だからわかる不振の要因と“欲の正体”

契約更改交渉に臨んだソフトバンク・正木智也【写真:藤浦一都】
契約更改交渉に臨んだソフトバンク・正木智也【写真:藤浦一都】

100万円ダウンの1200万円でサイン、2年目で開幕スタメンもわずか1安打

 今だから、冷静に振り返ることができる。ソフトバンクの正木智也外野手が19日、PayPayドームで契約更改交渉に臨んだ。100万円ダウンの1200万円(金額は推定)でサインした。「開幕スタメンは取れたんですけど、そこからいいスタートダッシュが切れなかった。実力がなかった」と振り返った。一番に出てくるのは開幕直後のこと。当時抱いていた焦り、台湾でのウインターリーグで見つけた光明をハッキリと口にした。

 2021年のドラフト会議で2位指名を受けて慶大から入団。昨季は新人ながら17安打、3本塁打を記録。確かな足がかりを示して、今季は開幕スタメンを手にした。藤本博史監督から「50打席与える」と言われながらも、蓋を開けてみれば18打数無安打で4月19日には登録抹消となった。6月4日の広島戦(マツダ)で今季初安打を記録するも、その1本だけで終わった。右肩の痛みにも苦しみ、シーズン終盤はリハビリ組にいた。

 秋季キャンプ、台湾でのウインターリーグを経て契約更改を迎えた。すでに右肩も癒えて、台湾では外野守備にも就いていた。上昇気流を描いて年末を迎えた今も、悔しい思い出は消えない。開幕直後について正木は「勝負ができていなかった。不甲斐ない」と真っ正面から受け止めている。全てを終えた今、4月に抱いていた思いはどんなものだったのか。

「最初の1本が出なかったことがメンタルにきたというか、その要因かなと思いますし。ただ漠然と打席に入っていたなって、今振り返って思うので。リハビリ中にも色々と考えて『打席の中でこういう入りをしよう』とか、右投手と左投手に応じてこういうタイプの投手はこういう待ち方をしようとか、やってきたことをしっかりと台湾で出せた。そこで結果も出て、またこういう待ち方をしようとか、自分で作れた部分があったので、そこは来年につながると思います」

 当時は地に足をつけて、自然体で打席に入っていたつもりだったが、焦りがあったことを認める。無安打が続くほど、結果を求める“欲”をコントロールすることができなかった。「“打ちたい打ちたい”ってなって、打てないボールに手を出してしまうことはありました。技術もそうですけどメンタルの面で勝負できていなかった」。リハビリという地道な日々の中でも、復帰した時のために打席の中でのアプローチを整理していたのだから、正木の実直さが伺える。

 11月の秋季キャンプ、球団は米国から「ドライブライン・ベースボール」のスタッフを招き、選手たちにきっかけを与えた。契約更改での球団との交渉でも「要望したことはないですけど、ドライブラインを導入してくれたこと、ウインターリーグに行かせてくれたことはありがとうございます、と伝えました」としっかり言葉にするのも正木らしい。科学的なアプローチから得たヒントとは、どんなものだったのか。

「まずはキャンプとドライブラインでやったことをそのまま(台湾での)試合に出してどうなるかというところだったんですけど、そこは自信になりました。僕の中では、今年試合にも出られていなかった分もあったので、この時期まで生きた投手の球を見られたことも含めてプラスだったと思います」

 ドライブラインからフィードバックとして受けたのは、打球角度を上げること。さまざまな打ち方を試す中で「ドライブラインでのことをやっていたら、全体を通して打球角度も上がったと思いますし、長打も増えた」と手応えを語る。台湾のウインターリーグでは打率.351と結果を残し生活面、食事面でも大きな苦労はなかったそうだ。「大丈夫でしたし、肩もだいぶ良くなりました」と充実し、少し日焼けもした表情で語る。

 数値的にもフェンスを越えていく可能性が高い指標を「バレルゾーン」という。正木も「バレルゾーンは20度の後半で、一番安打が出る角度は12度と言われている。僕の打球角度は12度よりも低かった。特に今年は、捉えた打球が強いゴロになることが多かった」と、課題が可視化されたことで、取り組む道も明確だ。「今までなかった感触、ホームランでも違った感触があったりしたのでそこは収穫です」と言う。一般論としてライナーの方が野手の間を抜いていくイメージだが、今の正木は少し上方修正することを課題としている。

「今年、右打者として期待されたのはわかっていた。来年こそはという気持ちもあります。右打者の若手で、活躍している選手がいないのもわかっている。チャンスでもあるので、そこに向けてやっていきたいです」

 年末年始は地元に帰省して、1月は主に筑後でトレーニングを重ねる予定だという。悔やんでも過去は戻ってこない。さらなる結果で、2024年をもっと彩っていきたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)