野手と投手の分離で行われた今秋キャンプ。筑後でトレーニングに励んでいた尾形は「コントロールをもう1個深く入って、狙ったところに投げる練習をしてきました。ストライクゾーンに投げるっていうのがコントロールって言われるんですけど、自分はそれに関しては数値的に高いけど、狙ったところに投げる能力は低い。コントロールのもう1個入ったところ、コマンドって言うんですけど、そこに今、焦点を当てて練習しています」と語る。
ブルペンでの投球練習でもその意識が見て取れる。1球投げるごとに、球速や回転数、回転軸などが分かる「ラプソード」を確認。「どこにボールが行ったのかをまず確認して、構えたところとどれくらい違うのかを記録する。あとはそのボールの、スライダーだったら横の変化量、真っ直ぐだったら縦の変化量だったり、その変化量でボールの伸びとかどこに行ったかっていうのをチェックしながらやっています」という。
入団時から強い真っ直ぐが最大の魅力だった尾形。その直球には年々、磨きがかかり、課題とされてきた制球力も徐々に安定感が出てきた。コントロールを更に向上させるために、シーズン終盤から、自身の投球を管理するために“とあるアプリ”を使っているという。
それは「4APP Sports」という海外のアプリだ。サイ・ヤング賞投手で今季DeNAでプレーしたトレバー・バウアー投手が設立した会社が開発し、バウアー自身も愛用している投球管理用のアプリ。尾形もバウアーのYouTubeでその存在を知ったという。
「探しまくって見つけて、(松本)晴が先にアプリ入れて、僕も入れて。設定とかも全部英語だったんですけど、それも翻訳機は使わずに突破しました。めっちゃいいじゃんみたいな」。説明や設定も全て英語だったが、挫けなかった。「中学レベルまで英語は得意でしたけど、そこからは全然なんで。あとは気合ですね。魂、魂で突破しました」と熱意だけで解読した。
試合の映像をアプリに入れ、投じた球種、狙った場所とそれがどれくらい外れたか、などを入力。準備、コンディション、制球(コマンド)、配球の4つのポイントで評価し、点数が出る。「この4つで評価することによって、試合で投げ終わった後、何が良くなかったかが分かる。準備はうまくいった、コンディションも良かった、コマンドもよかった、じゃあ何が悪かったのかってなったら配球ということになる。そこを修正して、次に臨めばいいんで、やることが明確になるんです」と説明する。
アプリを使用するようになったシーズン終盤は、迷いがなくなり結果や内容にも安定感があった。「あれを使わない手はないですよね。マジで便利だと思います。データも出るんで、例えば左バッター相手の時に、自分の球がどれくらいどこにズレるのかとかもわかってくる。右の時にはコントロールがいいのに、左になると真ん中に入るとか、自分のラインがどうなのかとかも全部見えるんです」と分析できるようになった。
この秋、ホークスはこれまで以上に動作解析など、データサイエンスを取り入れている。そういったチームとしての取り組みも、尾形は「プラスですね。やっぱテクノロジーとかデータとかって、薄々気づいてたんですけど、自分はめちゃくちゃ興味あります」と有効活用するべく前のめりだ。
ただ、データに頼りすぎてはいけないことも理解している。ハッとしたのは、先日、電撃トレードで巨人に移籍した高橋礼投手についての記事を読んだ時だった。「この前、久保(康生)コーチ(現・巨人巡回投手コーチ)の礼さんに対するコメントが出てたんですけど、めちゃめちゃいいことを言っていたんです。『パソコンと一緒で、人間ってデータを入れすぎると頭が重くなる。体が動かなくなる』みたいな。メンタルとうまくバランス取りながら、自分が勝負するんだってことは忘れない。うまくデータと付き合いながら、ハイブリッドでやっていこうかな」。自身の感覚や気持ちの面の大切さも忘れないようにと肝に銘じた。
「来年戦うであろう1軍バッター全員の弱点と、打てるところ、それだけじゃなくて、もし投げミスしても相手が打ち損じてくれるボール、真ん中にいっても打ち取れるボールっていうのを探っていけば、冷静にマウンドに立てると思う。それをアナリストの人にもちょっと色々聞いてみて。多分ここまでやる人はいないと思うので、シーズン始まった時にもう頭に入ってる状態にしたい」
オフの取り組みとして、あらゆるデータを頭に叩き込もうと取り組み始めている尾形。データサイエンスへの興味が増した今、これまで以上に自身がオフに取り組むべきことが見えてきた。目の奥のギラつきは、オフシーズンになっても消えることはない。来季へ向けて、肉体も、そして脳内も進化させる。