小久保裕紀2軍監督が「1回もない」と貫いた信条 若鷹指導で考える「1番良くない」こと

ソフトバンク・小久保裕紀2軍監督【写真:上杉あずさ】
ソフトバンク・小久保裕紀2軍監督【写真:上杉あずさ】

信念の根元にある岡田武史氏の言葉「勝利の女神は細部に宿る」

 ソフトバンクの2軍は29日、3年ぶり14度目のウエスタン・リーグ優勝を決めた。就任2年目で初めて優勝を手にした小久保裕紀2軍監督が鷹フルの独占インタビューに応じ、ファームの指揮官として貫いてきた育成哲学などを語った。30分を超えるロングインタビューを余すことなく、全文で公開。全3回の第1回は、小久保2軍監督なりに大切にしてきた、チーム作りにおける「信念」に迫る。

――今年の2軍と、監督自身の方針はどのようなものだったのでしょうか。
「今年というよりは2軍監督になってからですけど、去年もずっと言っていましたけど、ウォーミングアップのところ。まずは2軍に関しては、マーカーからマーカーまで、しっかりとやり切ることと、笛とともにスタートすること。各自がフライングをしないというのを決めてスタートしたので、その2点は一応やらせていました」

「1軍から降りてきた選手はクセづけができていなくて、勝手に走ったりしやすいので、それはちゃんと最初に『2軍はこういう方針でしているからね』っていうのを話して、やらせていましたね」

――2軍監督になった時、スリッパを並べることやペットボトルをちゃんと捨てるという話から始まった。
「それももちろん継続していて、志半ばですけどね。こればかりはなかなか、100%、みんながそうなっているかと言うと、そこまではやらせられていないかなって思います」

――人間教育を方針にするところに、監督の色が出ている。
「どうですかね。だって、普通に考えて、これだけの人間が共同生活しているわけじゃないですか。やっぱり同じ洗面所を使うのも、トイレを使うのも、そりゃ、きれいに使いたい。これだけの人数が自分のシャンプーとかリンスとか、そのまま浴室に置いていたら、スペースはなくなるわ、汚いわ、当たり前のことですよね」

「だから、寮が公共の場だという認識を、家じゃないよという認識を植え付けないといけないと思うので。そういうところからスタートして、下駄箱があるのにスリッパを下駄箱に入れない、とかね。それは今、なくなりました。僕、だいたいいつも朝早く来るので、スリッパが出ていたらそのままゴミ箱に捨てていたんですけど、最近は捨てるスリッパもなくなって、ちゃんと入っていますね。でもそれって、他の企業や社会とかだったら普通にやっていることだと思います」

――監督の原体験といいますか「そういうことが大事」だと思うようになったことには、どんな背景があるんですか?
「もちろん会長(王貞治球団会長)の教えもありましたし、あとはやっぱり強い時ってお風呂のスリッパって、お風呂あがって出る時に、出やすい並び方に並べられていたよねっていう話になっていた。ちょっと優勝が遠ざかってきた時って、グシャグシャになっていたり、反対になっていたり、とかっていう会話はロッカーの中でしていましたしね。そういうのは意識はしていました」

「一番は『勝利の女神は細部に宿る』っていう、これは元サッカー日本代表の岡田(武史)監督がよく話されていたことなんですけど、それこそ、岡田さんと対談をさせてもらった時にそういうことを学びました。それは、要は『3割打て』とか『5勝しろ』『10勝しろ』っていうのは目標として、なかなか難しいもの。達成できるのかもわからない」

「でも、スリッパをそろえるとか、今言ったウォーミングアップの2点とか、このユニホームはチームプレーの練習の時は絶対に着用で、Tシャツは禁止にしているんですけど、そういうのは守ろうと思えば守れることですよね。それを守らないということであれば、ホークスの一員としてこのグラウンドに立つ資格はないよねっていう。それさえ守っていれば、ホークスのプレーヤーとして自由に動いていいですよっていう枠組みを決めようとしたのが、昨年から継続的に我々が決めていることですね」

――Z世代の選手と目線を合わせることは難しかった。
「そうね。本来はここまで、コミュニケーションを取らなくてもいいかなと思いながら、意外にしゃべってしまっているという。そこは自分も、接し方を変えたというところかもしれないですね。ただ、コーチを飛び越えて、コーチが知らないことを飛び越えて指導したことは1回もないです。話すのであればコーチに『こういう話をした』っていうことを言うし、もしくは指導しようとした時には、担当コーチを必ず横に置いて、僕がしゃべっていることを聞かせるということはしました」

「結局、僕と選手が直接にしてしまうと、結局選手からすると上司が2人になりますよね。これが一番良くない。『監督にわかってもらっているから、別にいいんですよ』っていう構図になることが良くないんです、“1個飛ばし”が。コーチの権限、存在意義がなくなって動きが死んでしまうので、それは絶対にないようにやってきたのがこの2年間ですね。コーチの権限と責任はしっかりと守る。僕が直接、選手とやってしまうと、そういうことが起こりうるということですね」

――現役時代は圧倒的なプロ意識で突き動いてきた。それだけに、理解できないことも多かった。
「練習量に関してはありますね。僕は練習した方ですけど、でも、ちょっとずつ浸透してきているなって感じている。それは、僕らもメディアで話している言葉とかを拾うじゃないですか。そのあとに、空いている時間をどう使うのかっていうこととかを話す選手がちらほら出てきた。結局、そこの差が人の差につながりますよね」

「別に、今日いっぱい(練習を)したからって、明日急に上手くなるわけもない。やっぱり毎日の小さな積み重ね。1日30分でもいい。自分のプラスになる時間を作っている人と、作っていない人の差って、1年後、5年後、10年後を考えたら“3万時間の法則”になる」

「1日3時間すると、10年経ったら3万時間を超えて、プロと呼ばれるっていう数字になるんですけどね。それなら3時間でいいんですけど、野球はもうちょっとしているじゃないですか。本来、10年経ったらプロになるのは当たり前なんですけど、自分の小さい時間、積み重ねの時間が大事ですよって話はちょっとずつ出てきた。そういうことが大事だと気づいた選手は、ちらほら出てきたかな」

「あとは同じ移動をするのも、疲れているなら寝ればいいですし、趣味の音楽を聴いてリフレッシュするという目的があればいいですよ。でも、ただ“流行っている曲を聴く”のでは時間がもったいないですよね。だから『本を読め』という話は結構してきました」

「練習量に関しては今年だいぶ方針を変えて、あえて全体練習で気持ちよく打つフリーバッティングの量を減らして取り組んだんです。終わった後に特打が始まるんですけど、そうすれば『もっと特打をさせてください』とか『アーリーで外を使って打ちたいです』っていう選手が増えるというふうに予測してやったことが、見事に言ってこなかったです(笑)」

――監督もそういう意味で勉強中。
「コーチから促さない限りは『あ、いいです。僕は中で打ちます』みたいな……。僕はどっちかというと長距離バッターだったので、飛んだ距離を伸ばそうと思って練習していたので、メインの打撃時間を削られるのが一番嫌だったんですけど、あえてそれを、僕が一番好きだったことを敢えて削ってみたたんですけど、みんな『練習量が少なくなってよかった』くらいにしか思ってないんかなって思って」

「考え方としては、全体練習で使う時間はチームプレーが向上する時間に充てようというふうに考えた。キャンプの時も今年は1か所でしたんですよね、フリーバッティングを。結構、異例なんですけど、その代わりにティー打撃は3か所、ロングティーは2か所、あとはバントとかって全員が打てるように回したんですけど、向こう(外野)に打つのは1か所だけにしたわけですよ」

「今も(3連戦の)初日は普通に打たせますけど、2日目は片方は全部チームプレーをさせているんです。バント、バスター、バスターエンドラン、ヒットエンドラン、セーフティバントをやらせているんです。3日目は1か所で走者をつけて、どっちかというと走者がメインの練習、プラス外野手の打球捕。同じ角度でたくさんボールを見られる環境にしていたら、当然打つ量は減るじゃないですか」

「でも、あんまり言ってこなかったですね(笑)。そういうところは、物足りなさは当然ありますけどね。『上手くなりたくないんかな』『1軍行きたくないんかな』みたいなところはありますけど、でも、最後にスイッチを押すのは自分。ここまでは持ってきてやりますけど、(我々は)押せないので。あとは押すか、どうかは自分なので」

(中編へつづく)

(取材・米多祐樹、竹村岳)