「初心に返って全力でやることに尽きるなと改めて思いました」
悔しさをぶつけ、アピールしている。ソフトバンクの育成5年目・岡本直也投手は危機感を胸に腕を振る。「正直『C組か……』という気持ちが大きくて、もう同い歳でこっち(筑後)に残っているのは僕だけですし、悔しいの一言。1日でも早く上がりたいという気持ちが初日からありました」と唇を噛んだ。
その気持ちが姿からヒシヒシと伝わってくる。初日に行われた1キロ走では気迫の全力疾走。ペースダウンする選手もいる中、最後まで先頭で走り切った。その後、ブルペンで80球の熱投。筑後でキャンプを過ごすC組は初日に全員がブルペン入りしたが、岡本の迫力は圧巻の一言。「全ての面において全力でこなした1日でした」と振り返った。
2018年育成ドラフト2位で東農大北海道オホーツクから入団した左腕は4年目の昨季、ウエスタン・リーグで21試合に登板して防御率1.56。4勝をマークしてアピールした。武器の1つでもあった超スローカーブを封印し、真っ直ぐに磨きをかけてきた成果もあり、緩急のみならず、球速以上に打者を差し込むボールが光った。岡本自身も、真っ直ぐで空振りを取れるようになったことに手応えを感じていた。
オフは1年間戦える土台を作ることを意識してトレーニングを積んだ。同学年の甲斐野央投手らと静岡で行った自主トレでは、やり投げのトップ選手からも考え方を学んだ。「新たな発見もありました。1番感じたことは身体の軸の大切さです。そこがズレてしまうと怪我もするということを再確認出来ました。根本の軸という部分を大事にして、そこから強度を高めていく。その大切さを改めて感じる自主トレでした」と実りある時間を過ごした。
「近い目標で言ったら1日でも早くB組に行って、そこからA組に行って……。そのためにガムシャラに野球に打ち込むだけだな、と。全力でやってダメだったらそれまでだと思うので、まず全力でやってみる。そこだけを考えて、1日1日を大事にしたい」。言葉の端々に滲む熱は今までの岡本とまるで違う。「1つのことを全力で出来なかったら、他のことも全力で出来ない。その日出来る全力を出して行きたい」。
岡本がそう思うようになったキッカケの1つが、又吉克樹投手からの言葉だった。
「オフに又吉さんと食事に行かせてもらったんですけど、『ウエートを全力で出来ないやつが、ランニングを全力で走れるわけないし、ランニングを全力でやれないやつが、ウエートを全力でやれるはずない』と言われて……。自分5年目なんですけど、そういう気持ちを忘れたらダメだなと。初心に返って全力でやることに尽きるなと改めて思いました」
心に深く刺さったという先輩からの言葉。ソフトバンクの現状の支配下登録枠は67。残された支配下の枠は3つとわずかだが、今年に懸ける岡本の、心身ともに進化した姿に期待したい。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)