「あまりカッコよくないけど、ガムシャラな感じがする。なんか凄いんですよ」
充実の1年ではあったが、満足も納得もできていない。悔しい記憶が残るシーズンはきっと来季に向けて貴重な経験となるはずだ。2019年の育成ドラフト3巡目でソフトバンクに入団した伊藤大将内野手。二塁が本職ながら、三塁や遊撃も守れる器用さがあり、攻守のバランスが取れたポテンシャル高い内野手で、青森の八戸学院光星高時代は春夏通じて3度、甲子園に出場するなど大舞台も経験してきた。
プロ入り後は3軍を主戦場にコツコツと成長を遂げてきた。3年目の今季は3軍戦で77試合、2軍戦でも自己最多の31試合に出場した。2、3軍通じて100試合以上の経験を積み「2軍戦に去年より出場出来たし、打席数も立てたので、そういう意味では良かったかなと思います。でも、立場上は出させてもらったら、すぐ結果を出さないといけない立場。そこをモノにできなくて……」と唇を噛んだ。
2軍では打率.222。3軍では春先に好スタートを切ったものの、好調を継続できず「2、3軍合わせて結構、打席に立ったんですけど、全然率が残りませんでした。1軍は143試合ある。いっぱい打席に立ちながら、率を残せるのが1軍の選手なので。物足りないなと感じました」と振り返る。もらったチャンスで結果を残せなかったことも悔しいが、ある選手の存在でその悔しさが一際、増すことになった。
それは、2021年の育成ドラフト14巡目で入団した仲田慶介外野手。2軍の二塁手は競争が激しいが、今季前半は育成の緒方理貢内野手が主にその位置を任されていた。そこに台頭してきたのが仲田だった。徐々に緒方は外野に回ることになり、伊藤はポジションを掴めなかった。
「最初は緒方さんと同じポジションでしたが、緒方さんが外野に行って、仲田さんが内野に来て、そのまま掴まれた感じでしたね。シンプルに悔しかったです」と伊藤は言う。仲田と言えば、小久保裕紀2軍監督が「こっちがストップをかけてあげないといけない」と評するほどの“努力の天才”。「プロ野球選手ってカッコイイじゃないですか。先輩たちもカッコイイ。でも、仲田さんってドン臭いんですよ。あまりカッコよくないんですけど(笑い)、ガムシャラな感じがする。なんか凄いんですよ。野球で負けたというより、そういうところで負けた感じがします。僕ももっと泥臭くいかないといけない」と伊藤は自身に言い聞かせるように口にした。
4年目になる来季は2軍でもっとアピールしなければならない。「いろんなとこ守らせてもらったので、まず内野を全部守れるように。その上で、人より打たないといけない。ホームランとかじゃなくて、打率を1番伸ばしていかないといけない。打率、出塁率とか常に塁にいるイメージを持たれないといけない」と、這い上がるためにどんな選手になるべきか、まさにこのオフ考えている所だ。
ユーティリティプレーヤーではあるものの、俊足も武器にする牧原大成内野手や周東佑京内野手のイメージとはまた違う。ホークスでは中村晃外野手のような相手に嫌がられるような選手を理想に掲げる。課題はたくさんあるが、自らの特徴を明確にし、来季の飛躍を遂げるためにいま、オフを過ごしている。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)