鷹での10年、重かった主将の肩書き 初のOB戦に感動…内川さんが語った開催の“意義”

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  • 2025.03.23
OB戦で3ランを放った内川聖一さん【写真:冨田成美】
OB戦で3ランを放った内川聖一さん【写真:冨田成美】

3回に驚愕の3ラン…打った瞬間に確信「懐かしい感じがしました」

 選手ですら、胸を打たれる光景だった。満員のスタンドに抱いた感情は「終わらないでほしいな」。ソフトバンクのOB戦「SoftBank HAWKS 20th ANNIVERSARY SPECIAL MATCH Supported by 昭和建設」が23日、みずほPayPayドームで行われた。レジェンドたちが集結した中、球団初となったOB戦の“意義”を、内川聖一さんが代弁した。

 工藤公康元監督が率いる黒鷹軍の「5番・一塁」でスタメン出場。初回に三塁線を破る適時二塁打を放つと、最大の見せ場は3回だ。2死一、二塁から打席に立ち、森福允彦さんとの対戦。内角球をすくい上げると、打球は左翼スタンドに着弾した。「今日この(メンバーの)中で、現役の時よりいいバッティングをしたのは僕だけでしたね!」と胸を張る。4打点の活躍で、文句なしのMVPに選ばれた。

【動画】OB戦で3ランを放った内川聖一さん

 4万人以上のファンが足を運び、満員御礼も発表された。親会社が「ソフトバンク」となり、今年で20周年。アニバーサリーイヤーに実現したOB戦に、内川さんも「チケットがたくさん売れているのは僕も聞いていましたけど……」と驚きを隠さない。NPBでのプレーを終えて、2年以上が経つ。この日見た“景色”に感じたのは、純粋な「幸せ」だった。

「正直に言って、全部が印象的でした。子どもの頃、スタンドから見ていた皆さんがいて、日本一を一緒に目指した仲間がいて、後輩もいて……。本当に、こんなプラスがいっぱいある試合をさせてもらえたのは幸せだと思いましたし。本当にファンの皆さんが応援してくださる中で野球をやるのは幸せだと現役時代も思っていたんですけど、辞めてみて改めて感じることはたくさんありました」

 本塁打含む4打点の活躍。「自分がやった結果で喜んでもらえた。野球選手をやってきてよかったなと思いましたね」と噛み締める。スタンドが満員で埋まる中でプレーができる喜びは、現役時代に何度も味わった。あの光景が当たり前ではなかったんだと、引退したからこそ感じられる。日本シリーズもWBCも経験したが「人生の中で、こんなファンの皆さんの前で野球をやらせてもらえること、何回あるんだろうって思ったら、終わらないでほしいなと正直、思いました」と続けた。待ち望まれてきたOB戦開催。内川さんも、胸を打たれた1人だった。

 少し前には、ドジャースの大谷翔平投手らが開幕戦のために来日していた。内川さんも東京ドームを訪れたといい「やっぱり現役でやることが一番すごいんです。グラウンドでやっている選手が一番輝いている」と再認識した。実績を積んだのは本人の努力に他ならないが、第一線から退いていることは誰よりも自覚している。だからこそ、“今”を戦う選手たちにはリスペクトしかなかった。「僕もそれを実感したばかりの時期にユニホームを着させてもらえて幸せでした。本当にありがたい経験をさせてもらえました」。

 2010年オフに、国内FA権を行使してホークスに移籍。福岡で10年間、プレーを重ねた。2015年からは4年間キャプテンを務め、とてつもない重圧を背負った。「当時感じていたことと、今とでは全然違うと思いますね。その時はなんとかしなきゃ、どうにかしなきゃっていっぱいいっぱいでしたけど。(キャプテンは)やりたくても、全員ができることではない。今感じるのは、そういう役割を与えてもらえたのは幸せなこと、ありがたいことでした」と感謝は尽きない。OB戦という舞台は、自分のキャリアを振り返る機会にもなった。

「ベイスターズ、スワローズの時もそうなんですけど、いろんな立ち位置で野球をやらせてもらった。プロ入りして、まずは1軍に上がる時期があった。なんとか試合に出ようとして、たまに出られるようになって、それが続くようになったらレギュラーを取れた。最終的にキャプテンもやらせてもらえて、チームの勝敗も背負わないといけなかった。最後はベテランとして、40歳まで現役をやらせてもらえたので、本当に濃い野球人生でした。やってきてよかったなと素直に思います」

 ホークス移籍時は24番を背負っていたが、2年目からはこの日も背負った1番に変更。偉大な先輩たちの番号だと、心からリスペクトした上での決断だった。「今日は秋山(幸二)さんも柴原(洋)さんもいらっしゃったじゃないですか。それぞれが(背番号1を)象徴される選手ですし、そんな先輩から背番号をいただいたと思っていますので。同じユニホームを着られたのは嬉しいです」。そう語る表情は、野球少年のようだ。

 本塁打は、打った瞬間に確信したという。白球がみるみる小さくなり、スタンドに消えていく。久々の感触を「現役の時なら打ったボールがどれくらい飛んだのか、っていうのがある。そんなイメージまでは追い付かないだろうなと思っていたんですけど、今日は懐かしい感じがしました」と噛み締めた。スタンドが埋まるありがたさ、プレーができる喜び、現役でいられる時間の尊さ……。初のOB戦で見た景色は、内川さんの胸にも色濃く刻まれた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)