糸を垂らして、青空を眺めながら、その瞬間を待つ。これまで「人生そのもの」という野球に生きてきたスラッガーが、新たに気づいたリフレッシュ法だった。沖縄で自主トレを公開した山川穂高内野手と、リチャード内野手。2人でちょっとしたブームになったのが「釣り」だった。
山川といえば昨年11月、日本シリーズを終えた翌日もみずほPayPayドームを訪れて練習に励んだ。「皆さんは『無休トレーニング』みたいに書くじゃないですか。僕からすると、野球が人生ですから」。2025年シーズンに向けて、戦いが始まった“初日”。体を動かすことがあまりにも日常に溶け込んでいるから、頂上決戦の翌日であろうと特別なことではなかった。
とにかく練習の虫。そんな山川だが、自主トレ期間については「今年は休みましたね。なぜかというと、そろそろ休んだ方がいいかなと思って、試してみました。これまでは無休でやっていたんですけど、休みっていいですね」とはにかむ。若手時代から圧倒的な練習量でスラッガーとしての技術を身につけたが、もう33歳。ケアにも重点を置き始めた中で、リチャードが教えてくれたのが釣りだった。
「リチャードに釣りを教えてもらいました。僕が野球を教えた代わりに(笑)。休みの日に釣りをするのはいいなって思いましたね。楽しかったです。あれは楽しいです」
1月になってスタートした久米島での自主トレ。海に出かけたのは1度ではなく複数回と、釣れる瞬間をひたすら待つあの良さにハマってしまった。「釣れたのは、変な魚です。みんな変なんですけど(笑)。僕、結構釣りましたよ。10匹くらい」。種類の判別はまだできなくとも、楽しさに気づいたのは間違いない。「これからも続けますね。釣ったのを食べたりしました。リチャードが一生懸命に捌いてくれました」と笑顔で明かした。
リチャードも「釣りでは負けないですよ」とニヤリを笑う。ミーバイ、金目鯛……。ゲットした魚は多種多様で「詳しい人がいなくてわからなかったんですけど、あれは金目鯛でした。山川さんが初めて釣ったのはヒラメでした」と振り返る。野球におけるトレーニングは「もうやりたくない」ほどキツかったが、束の間の休息も師匠と一緒に楽しむことができた。
“釣り歴”は、短くないというリチャード。包丁を手に「結構捌けますよ」というのも、意外な特技だ。久米島で宿泊していたホテルの方々も「『魚釣りました』って言ったら『食べる?』って言ってくれたんです。『え、いいんですか! 食べてみたいです』って」と、すぐに料理に変えてくれた。「刺身と鍋にしてくれました。めちゃくちゃ美味かったです……」と舌鼓を打ったのも思い出の1つだ。
オフとは言っても、午前中だけトレーニングという日も珍しくなかったという。それでも「マジでいい休日でした」と、オフならではの瞬間も楽しめた。山川も「やることがないので、休みの日って。野球の練習もありますけど、ちょっと離れるわけではないですけど、体も休まる。リフレッシュになりますかね」と満足した様子だった。
山川にとって、リチャードと出会ったのは2018年オフ。関係性も長くなってきた。今オフの自主トレではハードなトレーニングを課しつつも、「絶対に変わりたい」という覚悟に応えるためにも、技術と思考の全てを愛弟子に叩き込んできた。リチャードの何が可愛くて、ここまで丁寧に面倒を見ることができるのか。「なんですかね、考えたこともなかったです」と言いながら、山川なりの答えを教えてくれた。
「全くメリットないですよね。でも釣りの時とかも、頑張ってくれますよ。僕が『エサつけて』って言ったら『わかりました!』とか言って(笑)。そういうことじゃないですかね。野球においてはメリットはないですけど。友達だからです、後輩」
大げさな理由は必要ないのかもしれない。久米島の海で魚が釣れる瞬間を待ちながらきっと、そう思った。