ファームで最優秀防御率も…データに表れていた三浦瑞樹の課題
多くのホークスファンに衝撃が走ったのではないだろうか。11月4日、三浦瑞樹投手と仲田慶介内野手が球団から戦力外通告を受けた。三浦は7月下旬に支配下登録を勝ち取ったばかりで、ウエスタン・リーグでは最優秀防御率を獲得した有望投手だ。開幕前に支配下登録された仲田も同リーグで打率.403と圧倒的な成績を残した。ともに来季の“ブレーク候補”として期待する声も少なくなかった。
一方で、丁寧にデータを追っていくと、なぜ2人が戦力外となったのか、背景の一端が見えてくる。ファンから疑問の声が上がることもあった“判断”を、データ分析の観点から読み解く。
まずは、今シーズンに大きな飛躍を果たした25歳の三浦を見ていく。盛岡大付高(岩手)、東北福祉大(宮城)を経て、2021年育成ドラフト4位で入団した左腕は、昨季までの2年間は2軍戦で計72イニングを投げ、防御率3.63とファームレベルでも平凡な先発投手だった。しかし、今季は自己最多の95回2/3を投げて防御率1.60を記録し、最優秀防御率のタイトルを獲得した。
今年7月24日には待望の支配下登録を掴み取った。わずか5試合ではあったものの、1軍登板も果たした。経験を積んで来季こそ——。そんな中での戦力外通告だった。データ分析から浮かび上がってきたのは、防御率こそ優れているものの、“自分の力でアウトを取れていない”という事実だ。
近年、野球界ではデータ分析が発達し、従来とは異なった評価方法が生まれている。特に投手に関しては大きな変化が起こっている。最大の特徴は、“投手自身がコントロールできる”要素のみに絞って評価され始めたことだ。
失点を抑えられるかどうかは、投手自身がコントロールできない要素も数多く絡んでいる。例えば当たり損ねの打球が安打になったり、完璧に捉えられた当たりが野手の正面を突いてアウトになったりすることもある。失点は、バックの守備や運といった要素に大きく依存している。一般的な投手成績にはこうした“偶発性”が多分に絡んでおり、成績の優劣が投手本来の能力をそのまま反映していないと言える。
こうした背景を受け、MLBをはじめとした最新データ分析を取り入れた球団では、偶発性が関わらない“投手自身がコントロールできる”要素のみによる評価が主流となっている。具体的には奪三振、与四球、被本塁打の3つだ。いずれも野手の守備が関与しない、投手と打者の間のみで成立する記録であり、投手の優劣を判断する重要な“材料”と考えられている。
この観点で見ると、三浦の問題が浮かび上がってくる。以下の表2は、三浦の対戦打者に占める3つの要素の発生割合を表したものだ。三振%については大きいほど、四球%と本塁打%については小さいほど優れていることを意味する。
まず注目したいのが四球%と本塁打%だ。四球%はウエスタン・リーグ平均の9.2%に対し、三浦は6.3%。本塁打%は平均が1.0%であるのに対して0.5%と、ともに平均よりも優れた値を記録している。この2つの要素について、三浦はファームで優秀な投手だった。
気になるのは奪三振能力だ。三振%は平均が16.9%なのに対し、三浦は15.6%。1軍よりも打者のレベルが落ちるファームでも、平均を下回っている。そしてこの傾向は今季に限った話ではない。三浦のファームでの三振%は、2022年から15.8%→14.4%→15.6%と大きな変化はない。データ分析の観点では四球や本塁打は少なく抑えることができた一方で、平均よりも三振を奪えない投手だったようだ。
実際に1軍の座を懸けて争った先発投手たちと比較すると、差は大きかった。表3は三浦と他の投手たちとのファーム成績を比較したものだ。
ベテランの和田毅投手(27.0%)や、高卒新人の前田悠伍投手(23.3%)は高い数値を記録。三浦は、空振りを奪う能力も課題を残した。空振り%(空振り÷投球)は9.0%。これも他の投手が10%以上の数値を記録する中だと、目立たない結果だった。
■OPSで見ても圧倒的な成績を残していた仲田は“上振れ”の可能性
野手の仲田はどうだろうか。福岡大大濠高から福岡大を経て、2021年育成ドラフト14位で入団。育成3年目を迎えた今季は、開幕前の3月19日に支配下選手契約を結んだ。1軍出場は24試合と多くはなかったが、ファームでは打率.403と圧倒的な成績を残した。
セイバーメトリクスの指標から見ても優れた選手と言える。2軍では出塁率と長打率を合わせたOPSで.985を記録。ファームではあるが、1.000を超えればリーグ最強打者レベルと呼ばれる基準に接近していた。仲田はデータ分析における重要なスタッツで、非常に優秀だった。
では、なぜフロントは戦力外との判断に至ったのか。それは今季の仲田が残した成績が“上振れている”と判断したからではないか。ファームで4割を超える打率を記録したが、これはわずか88打席での記録だ。少ない打席数の中でなら、こういった飛び抜けた数字が出ることも珍しくない。
上振れていた可能性の補足材料として、フィールド内に飛んだ打球が安打になる割合を表すBABIPという指標を用いる。そもそも打球が発生しない三振や、フィールドに飛んだ打球のうち、本塁打を除いたインプレー打球のみに絞った打率である。
さきほど三浦の際にも説明したように、野球では当たりそこねの打球が安打になることもあれば、完璧に捉えられた当たりが野手の正面を突いてアウトになることもある。これは野手視点でも同様だ。安打が生まれるかどうかは、運や偶発性が大きく関わってくる。
このBABIPについては、どんな選手でも共通して3割前後に値が収束していくという興味深い傾向が見られる。どれだけ打力が優れていても、インプレー打球の5割や6割を安打にできる打者は存在しない。例えば史上最高のヒットメーカーと言えるイチローでさえ、MLBでの通算BABIPは.338。高い数値が出たシーズンでは4割近くを記録することもあったが、それを維持するのは難しい。あのイチローでさえ、打球を狙ってヒットゾーンに飛ばし続けることは至難の業なのだ。
仲田のBABIPを見てみると、昨季まで3割をやや上回る程度だった値が今季は.469まで跳ね上がっている。ファームとはいえ、現実的には維持するのが難しい4割を大きく超える数値を記録していた。
強い打球を多く放っていればBABIPが急激に上昇するのも理解できるが、仲田の打球傾向に特段変わった様子は見られない。打球の強さを弱・中・強の3段階に分けたうち、強の打球にあたる割合を表す「Hard%」は今季36.9%。昨季の35.2%とほぼ変わらない。
また“打球の質”も判断材料になった可能性もある。ホークスはチームレベルで打球速度に最低ラインを設け、それを目標として練習に取り組んでいることが報道されている。仲田の打撃成績だけでなく、打球の質をフロントはしっかりとチェックしていたのかもしれない。
確かにファームで打率4割超えという数値だけを切り取るとインパクトは大きいが、打球関連のスタッツを細部まで見ていくと、この成績を継続していくことが難しい側面も見えてくる。
今回の2選手への戦力外通告は、おそらくホークスでなければ起きなかった選択だろう。まず要因の1つは選手層の問題だ。ホークスは現在、12球団で最も厚い選手層を備えており、競争を勝ち抜くのは容易ではない。他球団であれば支配下に残れるレベルの選手であっても、ホークスであれば弾かれてしまう状況にある。
そして、もう1つはデータリテラシーの問題だ。この2選手のスタッツを単純に受け取れば、極めて優れた有望な選手と判断できる。しかし、フロントはこうした数字がどのように生まれたのか、数字の背景にある文脈を適切に理解して判断を行った可能性が高い。ホークス並の選手層を備えた球団があったとしても、データリテラシーがなければこうした判断を行えていない可能性が高い。
2選手にとってはもちろん、非常に残酷でシビアな結果になったというほかない。しかし、別の側面から見れば、ホークスフロントのデータリテラシーの高さを感じさせる出来事であった。近年のプロ野球における最強球団であるホークスは、その強さの要因を資金力に結び付けられることが多い。確かにそれは一理あるだろうが、それだけではない。データを読み解く力も最強の要因ではないか。
三浦は中日、仲田は西武とそれぞれ育成選手契約を結んだ。環境を変え、大化けした選手も少なくない。データに表れている課題をどう克服し、飛躍へと繋げていくのか。来季以降のプレーにも注目だ。
DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。