パ・リーグの優勝争いが最終局面を迎えるなど、大きな盛り上がりを迎えている裏で、今年も例外なくプロ野球の世界に“別れの季節”がやってきた。「また同級生が減っていくな、っていうのが寂しいですね」。静かに口を開いたのは、東浜巨投手だった。
1990年生まれの右腕は、今季が入団12年目の34歳。同学年の選手がユニホームを脱ぐ決断をしたことは、当然耳に入ってくる。「同級生で言えば、西武の金子侑司(外野手)とか日本ハムの鍵谷陽平(投手)とか。金子侑は大学ジャパンで一緒のチームでしたし、鍵谷に関しては、4年間東都(大学野球リーグ)で対戦していた相手。お互い知っている仲ですからね」と思いを巡らせた。
同学年以外でも、1学年下の阪神・秋山拓巳投手や、1学年上のオリックス・小田裕也外野手ら年齢の近い選手の引退報道も目にした。右腕が言葉にしたのは、自身にもいつかは訪れる“その時”についてだった。
「もう30歳を過ぎたら、そういうのが見えてくる、ちらついてくると思いますし、例外なく、自分に対しても年々それは強く思うようにはなってきているので。だからこそ、頑張りたいっていうのはあるんですけど。(引退報道を)見る度に、それでもやっぱり寂しくはなりますね」
経験を重ねるとともに、年齢も増えていく。若手の頃と比べても、心身ともに同じようにはいかないし、チーム内における立場も変わっていくものだ。それでも東浜は「やっぱり、1年1年が勝負なのは年齢を問わず関係ないので」と変わらずに全力で腕を振ってきた。「年齢を重ねていけばいくほど、求められる役割とかハードルとか、それは大きくなっていくのは当たり前のことですし、それに応えていけるように自分を作っていくっていうのもそうだし。年々自分が成長していきたいっていう思いが一番強いですね」と気持ちが衰えることは一切ない。
自分自身に厳しい東浜だからこそ、現状への歯がゆさは当然、抱いている。「なかなか苦しんでるところは正直ありますけど。でも、いろんなトライアルアンドエラーをしながらっていう感じじゃないですかね」。進化を求めて試行錯誤を続ける高い向上心こそが、プロの世界で12年間を生き抜いてきた右腕の強みだ。
ファームで過ごす時間は長くなってきたが、若手からも学べることがないかと常に視野を広く持つ貪欲さも印象的だ。立ち止まって後輩投手のキャッチボールを見つめたり、トレーニングを共にしたり。基本的に自分から声を掛けることはないが、苦しんでいる後輩がいたら手を差し伸べることもある。オフの日にも自らの動作や身体を見直して、熱心に探求し続けている。
高い意識で黙々とトレーニングに取り組み、再び1軍での登板機会を目指している。同学年の選手がユニホームを脱いでいく現状。そして近い将来、自分自身も他人事ではないという“現実”も受け止めている。
「どうしてもやっぱり、そこは意識せざるを得ないところなんで。でも、そこに気を取られるっていうよりも、目の前の1つ1つをやるしかないっていうところですね。年々、同級生や年の近い選手が決断しているのを見ると、リアルだなと思いますね」
金子侑や鍵谷の引退報道が出た時点では、「まだ引退試合とかセレモニーとかもあると思う。今は連絡せず、その時に連絡しようかなと思ってます。まだ現役なので『お疲れ』っていうのはまだ早いかな」と、大きな“決断”をした同学年の戦友たちに敬意を示した。
プロ野球界の“リアル”を感じながらも、東浜は腕を振り続けてくれるはず。12年目の現在地は確かに苦しんでいるが、決して下を向かない。甲子園優勝、最多勝、ノーヒットノーラン……。数々の栄光を手にした「90年世代の星」に、もう一花も二花も咲かせてほしいと切に願う。