周東佑京がまさかの「30位」…データで見るホークスの走塁力 必要な「あと少しの慎重さ」

ソフトバンク・周東佑京【写真:栗木一考】
ソフトバンク・周東佑京【写真:栗木一考】

盗塁だけじゃない…データから見えてくるソフトバンクの「走塁力」

 シーズンも佳境に入り、ソフトバンクの走塁面に注目が集まる場面が目立った。8月下旬には本塁への突入が裏目に出て、好機を逸するケースが頻発。優勝に向けてギアを上げたいチームにとって、ブレーキがかかってしまう事態となった。

 走塁は時に勝負を分ける。実際に走塁がうまくいっているかどうかは、どのように判断できるのか。今回、ソフトバンクは立て続けに“ミス”が続いたが、これはあくまで一部の期間においてだ。シーズン全体で見ると、評価はまた変わってくる。盗塁については成功率などである程度は把握することができるが、それ以外の走塁についてのデータはあまり見かけられない。

 そこで今回は、盗塁以外の走塁についてデータで迫ってみたい。実際のところ、ソフトバンクの走塁はどれほどうまくいっているのだろうか。

 盗塁以外の走塁貢献度を測るには、UBR(Ultimate Base Running)という指標を使用する。これは走塁力が差を分ける場面で進塁に成功したか、それとも自重したか、またはアウトになったかを集計。この結果から、平均的な走者に比べてどれだけ走塁で得点を増やしたかを測るものだ。

 走塁力が差を分ける場面を一部挙げると、以下のようなものがある。最もイメージしやすいところでは、走者が二塁にいる場面で単打が発生した際の本塁生還だろうか。このほかにも内野ゴロでの進塁など、走塁力が問われるさまざまな場面の走塁結果を集計し、それを総合したものがUBRだ。

【UBR算出対象プレーの一部例】
・二塁走者がいる場面で単打が発生した場合の本塁突入
・一塁走者がいる場面で二塁打が発生した場合の本塁突入
・一塁走者がいる場面で単打が発生した場合の三塁進塁
・三塁走者がいる場面で外野フライ(犠飛)が発生した場合の本塁突入
・三塁走者がいる場面で内野ゴロが発生した場合の本塁突入

 以下が2024年のUBRランキングとなる。(データはいずれも9月5日時点)

 結果を見ると、1位は9.6点を記録したロッテ。これはロッテの走者がリーグの平均レベルだった場合に比べ、チームの得点を9.6点増やす走塁を見せていることを意味する。続いて2位は7.4を記録した阪神、さらに6.02を記録した広島と続く。

 ソフトバンクは広島に次ぐ4位で、UBRは5.99を記録した。最近の出来事を考えると意外に映るかもしれないが、NPB全体の中でもかなり優れた成果が出ているといえる。ソフトバンクの走塁は、データ面から見れば12球団でも上位に位置していることが分かる。

ソフトバンク・周東佑京【写真:栗木一考】
ソフトバンク・周東佑京【写真:栗木一考】

 具体的な場面に注目してみたい。場面別で見たときにソフトバンクが最も目立っているのは、二塁走者がいる場面で単打が発生したときの本塁突入である。走塁力が問われる最も「花形の場面」といってもいいだろう。

 この場面においてソフトバンクは今季、単打を128本放っている(表2)。そのうち、生還に成功した数は84。“生還率”は実に65.6%だ。これは12球団でも断トツで、一部には40%にも満たないチームもある中で、明確に優れた値を残している。ソフトバンクが積極的な走塁で数多くの得点を生んでいることがよく分かる。

積極的な走塁が“仇”となる場面も…俊足の周東佑京でも「マイナス評価」

 ただ、積極的な走塁には当然リスクもある。さきほどは生還率を見たが、同じ場面での走塁死も加味すると見方が変わる(表3)。生還率こそ65.6%でトップだったソフトバンクだが、走塁死の数も「8」。これは12球団で最も多い数字だ。つまり、積極果敢に本塁を狙う姿勢は高い生還率につながっているものの、走塁死も数多く生む結果になっている。8月下旬における本塁憤死の多発も、積極的な姿勢の代償といえるかもしれない。

 そして、走塁において生還率の高さ以上に重要なのが、いかに「アウトにならないか」だ。1死二塁からの単打で生還できなかった場合、状況は1死一、三塁に変わるだけ。これに対し、本塁で憤死した場合は2死一塁に変わる。自重した場合のデメリットは走者が進塁できないだけ。しかし本塁で憤死した場合、走者が留まるどころか消えてしまい、さらにアウトカウントまで増える。大きなデメリットを二重に受けてしまう形だ。よって、走塁においては進塁よりも、何よりアウトにならないことを目指すのがセオリーとなる。そこから考えるとソフトバンクはアウトになるリスクをとりすぎているのかもしれない。

 実際に走者が二塁にいる場面での単打に限定したUBRを見ると、ソフトバンクは5位の4.2。生還率は65.6%でトップだったにもかかわらず、総合的な値が最上位にはきていない。走塁死によるダメージの大きさがよく分かるデータだ。

 個人レベルで見ると、課題はより実感しやすいかもしれない。個人のUBRランキングを見ると、球界一の俊足として知られる周東佑京内野手はまさかの30位に沈んでいる(表4)。足の速さでは負けていないであろう近本光司外野手(阪神)が8.2、中野拓夢内野手(同)が7.1を記録する中、周東の数値は1.9。あれほどの俊足選手が、平均的な走者に比べてプラス1.9点分の得点しか生み出せていない。

 もちろん周東が進塁できていないわけではない。やはり問題となっているのは走塁死だ。先ほど紹介した走者二塁の場面から単打で本塁を狙うケースでいうと、二塁走者・周東は今季、この条件下で11度の機会のうち8度生還に成功している。72.7%と高い生還率だ。

 その一方で、11度のうち2度は本塁で憤死している(1度は三塁進塁)。これにより、この場面における周東のUBRは-1.2。アウトの多さが生還率の高さをかき消している形だ。高い生還率はソフトバンクの強みだが、もう少し自重する姿勢も必要かもしれない。そうなれば、データ面では周東をはじめとした俊足選手の持ち味をより活かすことができるはずだ。

 また、走塁データを見る際には前提として抑えないといけない考えがある。それは、塁に出なければ走塁力は活かせないという点だ。どれだけスピードのある選手が揃っていても、出塁できなければ走力を活かす機会は生まれない。大谷翔平投手(ドジャース)があれだけ盗塁を積み重ねられるのは、スピードはもちろん、ベースとして数多く出塁できているからだ。

 それを考えると、今季のソフトバンクの打線は12球団最強と呼べるほど強力だ。つまり、他球団に比べて走力を活かす機会には恵まれている。俊足の選手も多く、さらにそれを活かす機会も多いとなると、走塁死を防ぐ「あと少しの慎重さ」があれば、走塁でも他球団に大きな差をつけられるチームになるのではないか。パ・リーグを独走するソフトバンクだが、まだ伸びしろを残すチームといっていいかもしれない。

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。