5年前の2年連続V逸…2013年ドラフトが影響? 明暗くっきり“10年後の答え合わせ”

中日・上林誠知、阪神・加治屋蓮、ソフトバンク・石川柊太(左から)【写真:竹村岳、矢口亨、荒川祐史】
中日・上林誠知、阪神・加治屋蓮、ソフトバンク・石川柊太(左から)【写真:竹村岳、矢口亨、荒川祐史】

松井裕樹、杉浦稔大を外し加治屋蓮を1位指名…10年経った現在の評価は?

 2024年のプロ野球も終盤戦に突入している。ここから優勝争い、ポストシーズンへと突入するが、この時期は同時にドラフト会議への期待が高まる季節でもある。今年のドラフトでは明大の遊撃手・宗山塁内野手が最大の目玉とされている。逸材を獲得するのはどの球団なのか、楽しみにしているファンも多いだろう。

 ドラフト直後には数多くのファンや専門家が指名の成否を論じる。だが、この時点で評価の高かった球団がそのままドラフトの「勝者」となるわけではない。複数球団が競合したドラフト1位選手が1軍定着すらできずに現役生活を終えることも少なくない。一方で千賀滉大投手(現メッツ)や甲斐拓也捕手のように、育成入団からスターになる選手もいる。指名直後ではその後の成果が分からないのは当然のことだ。

 ただ、ある程度の時間が経てば成否もある程度分かってくる。10年も経てば、評価はほぼ固まったと言えるだろう。そこで今回はプロで10年のキャリアが終わった2013年のドラフト指名について振り返り、評価したい。2013年ソフトバンクの指名はどれほどの成果を出せたのだろうか。

 2013年ドラフトでソフトバンクは支配下選手4人、育成選手4人の計8人の指名を行った。1位では松井裕樹投手(桐光学園高・現パドレス)、杉浦稔大投手(国学院大・現日本ハム)と2度の抽選を外し、結果的に加治屋蓮投手(JR九州・現阪神)を獲得。その後は2位の森唯斗投手(三菱自動車倉敷オーシャンズ・現DeNA)、4位の上林誠知外野手(仙台育英高・現中日)、育成ドラフト1位の石川柊太投手(創価大)ら、後に主力へと成長する選手が指名されている。

 3位指名の岡本健投手(新日鐵住金かずさマジック)も合わせ、上位指名4人のうち3枠を社会人投手に費やしているのが特徴的だ。十分成功に思えるドラフトだが、客観的に他球団と比較してどの程度の成果が出ているだろうか。

WARで見る最大の“勝ち組”は西武、広島…ソフトバンクは12球団中5位

 今回はセイバーメトリクスの総合評価指標「WAR」(Wins Above Replacement)を使って、ドラフトの成果を確認する。WARとは打撃、守備、走塁、投球を総合的に評価し、選手の貢献度を表した指標で、「勝利貢献度」と言い換えることもできる。例えばWARが2.0の選手であれば、控えレベルの選手が代わりに出場した場合に比べ、その選手によってチームの勝利が2勝分増えたと考えることができる。投手も野手も同じ土俵で評価できるため、ドラフトの成果確認に最適の指標といえる。

 まず2013年ドラフトの指名選手が2014年から2023年の10年間にどれだけのWARを記録したか、その合計を球団別に振り返る。これからおおまかに球団ごとの成功・失敗が見えてくる。

 このドラフトで最も大きな成功を収めたのはWAR54.4を記録した西武、47.1を記録した広島の2球団だ。西武はこの年、ドラフト1位で森友哉捕手(現オリックス)、2位で山川穂高内野手(現ソフトバンク)を獲得。広島は1位が大瀬良大地投手、2位九里亜蓮投手、3位で田中広輔内野手を獲得した。複数の主力選手を獲得したことで、他球団に圧倒的な差をつけている。

 一方、ソフトバンクのWARは20.5で5位。西武、広島には及ばずとも、森や上林ら後の主力を複数獲得したことで、悪くない成果が出ている。

 しかし、厳しい見方をすればトップクラスの成果が得られなかったとも言える。特に西武に大きな差をつけられたのは野手のWARだ。前述したように、この年の西武は森、山川というリーグを代表する野手を同時に獲得。これがWAR55.2という圧倒的な野手WARに大きく寄与した。

Bクラスからの巻き返しを図った「即戦力路線」が一定の効果

 ソフトバンクのWARは投手が12.8、野手が7.6と、投手のほうが大きなWARを記録している。2013年シーズン、チームはBクラス4位と低迷。早期の建て直しが必要な状況にあった。そういった背景もあり、比較的早い段階で戦力となりうる社会人、しかも投手を優先的に指名したのかもしれない。

 実際、この指名はすぐに戦力増強へとつながった。【表3】は2013年ドラフトの指名選手がどの年度にどれだけのWARを記録したかを表したものだ。これを見ると、ドラフト翌年の2014年にソフトバンクは1.5、2015年は1.8と確かに「即戦力路線」が成果を生んでいる。

 これは森の存在が大きい。ルーキーイヤーの2014年は58試合に登板し、4勝1敗20ホールド、防御率2.33をマーク。同年のオリックスとの優勝争いを制する要因となったのは間違いない。2018年には上林が全試合に出場して打率.270、22本塁打、62打点を記録。この年にチームの合計WARは最大の6.5にまで膨らんだ。

 ただ、WARが膨らんでいくペースは西武には敵わなかった。上位指名を森・山川と固めた西武は、指名翌年の2014年には0.1と12球団ワーストの成果だった。しかし、育成に時間のかかる野手が徐々に戦力となるにつれ、大きく数字を伸ばしてきた。2015年以降は1.4→2.6→5.2。連覇した2018、2019年は9.0、11.7と凄まじい数字を残した。

 ソフトバンクの2018年の勝率は.577、2019年は.551と、他球団次第では優勝の可能性もある数字だった。データを見ると西武に連覇を許した2年間に関しては、2013年ドラフトが大きな要因だったと言える。

 もちろん、2013年ドラフトはソフトバンクにとって成功の部類に入るものだ。森というブルペン陣を支えた人材を得られたうえ、上林、石川が主力化した価値は大きい。一方で優勝を逃した要因という解釈もできるドラフトだったのではないか。

【個別レビュー】“稼ぎ頭”は森、上林…育成から石川が輩出も、1位指名が伸び悩む

 最後に、ソフトバンクの2013年ドラフト組が具体的にどのようなキャリアを送ったか、WARの値とともに振り返っていきたい。

<1位・加治屋蓮>

「外れ外れ1位」で入団した加治屋は、10年間通算でWAR0.7。特にソフトバンクに在籍した2020年までの合計WARは0.0と、ドラフト1位に相応しい成績を残したとはいいがたい数字が残った。

 2018年にはリーグ最多の72試合に登板し、31ホールドを記録。同年にWAR0.7を残したが、それがキャリアハイとなっている。ソフトバンク時代は故障に見舞われることも多く、チームの厚い選手層に阻まれる形のキャリアを送った。チーム視点で見ると、1位指名に相応しいリターンを得ることはできなかったと考えるのが妥当かもしれない。

<2位・森唯斗>

 2013年ドラフト最大の「功労者」となったのが、WAR7.5を記録した森だった。1年目からいきなり58試合に登板。65回2/3イニングを投げて、WAR1.5を稼ぐ活躍。翌年以降も毎年1前後の数字を残しており、安定した投球を見せる優れた救援投手だったことが分かる。

 2021年以降は低迷しているが、それでも森の貢献度は球団にとっては「お釣り」が来るほどに違いない。10年間で残したWAR7.5は、2013年ドラフトで指名された全選手中11位に入る高水準だった。ドラフト1位は全12人。10年経った現在から見ると、森はドラフト1位クラスの成績を残したといえる。

<3位・岡本健>

 3位では新日鐵住金かずさマジックの岡本を指名。2019年限りで現役を引退した岡本は通算50試合に登板してWAR0.2と、目立った活躍を見せることはできなかった。

 岡本はプロ3年目にして初めて1軍登板を果たし、防御率2.57の結果を残したが、その後は1軍に定着することはできなかった。防御率で見れば通算で3.42と決して悪くないが、リーグ平均が20%弱となる「奪三振%」(奪三振÷対戦打者)は通算で14.1%。ストレートの平均球速も140キロ前半にとどまるなど、球威不足だった感は否めない。度重なる故障が将来を阻んでしまった形だ。

<4位・上林誠知>

 森に次ぐWAR6.8を計上したのが上林だった。走攻守で高いレベルを兼ね備えた外野手として、2017、2018年は主力選手として活躍。チームに大きな貢献を残した。特に2018年は全143試合に出場して22本塁打。打率.270、出塁率.315、長打率.488をマークした。走塁、守備でも目覚ましい働きを見せ、WARは4.4を記録。これは同年のパ・リーグの投手、野手を合わせて全体10位の数字だった。シーズン終了時点で上林はまだ22歳だったことを考えると、極めて未来は明るいように見えた。

 ただ翌年以降は故障に悩まされるなど下降線を辿り、今季からは中日に移籍。あの頃の輝きを取り戻せてはいない。もし上林が2019年以降も順調に成績を残せていれば、2013年ドラフトでソフトバンクは西武、広島に迫る成果を残せていた可能性がある。

<育成1位・石川柊太>

 育成から這い上がった石川はWAR4.8を記録している。2013年ドラフトでソフトバンクが指名した選手の中では森、上林に次ぐ数字をマークしている。右腕が最大の成果を見せたのがWAR2.0を記録した2020年。この年に11勝を挙げて最多勝のタイトルを獲得したが、セイバーメトリクスの観点から見ると圧倒的な内容というわけではなかった。毎年のように100イニング近くを消化するなど、先発が不足気味だったチームにとって貴重な存在となっていた。

 今後もキャリアを伸ばしていく可能性が十分にある投手で、現時点で評価を固めるべきではないかもしれない。引退時点で見ると、森や上林を上回るWARを記録していてもおかしくはない選手だ。育成選手の成功例として千賀や甲斐の名前が度々上がるが、石川もその好例と言えるだろう。

<育成2位・東方伸友>

 育成2位で入団した東方は故障に泣かされ、ついに1軍のマウンドに上がることはできなかった。右肘に計3度もメスを入れ、2017年シーズン後に戦力外通告を受けた。トミー・ジョン手術を含む怪我に見舞われ、実力を発揮できなかったのは残念だった。

<育成3位・曽根海成>

 内外野6ポジションを守るユーティリティプレイヤーの曽根は育成3位から這い上がった。2018年途中まで在籍したソフトバンクでは出場は2試合のみで、WARは0.0だった。トレードで移籍した広島でWAR0.4を記録。育成3位の選手としては十分に大成したと言っていいだろう。

<育成4位・張本優大>

 佛教大から入団した張本は、結局1軍出場なしでキャリアを終えた。現役当時のソフトバンクには甲斐、山下斐紹捕手、栗原陵矢内野手ら若手捕手がひしめいており、その壁を破るのは難しかったと言えるだろう。

※表2・3のWARは他球団に移籍した選手のWARも指名球団のものとしてカウントしている。

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。