前田悠伍の恐るべきコミュ力…ウォーカーが「好き」 繋がりを生んだ“野望”

ソフトバンクのアダム・ウォーカー(左)と前田悠伍【写真:重田倫明広報提供】
ソフトバンクのアダム・ウォーカー(左)と前田悠伍【写真:重田倫明広報提供】

23日から2軍は神戸に遠征…帰りのバスで前田悠伍とウォーカーが語学の勉強

 チームバスの中でまさかの“英語授業”が始まった。外国人選手の懐にまで飛び込んでしまうのだから、愛される才能を秘めている。ソフトバンクの2軍は23日から25日まで行われたウエスタン・リーグの阪神戦(ほっと神戸)を2勝1敗と勝ち越した。25日に先発登板して、3勝目を挙げたのがドラフト1位の前田悠伍投手だった。7回途中を3失点も、9三振を奪う力投。ルーキーイヤーから着実にステップを積んでいる左腕に対し、アダム・ウォーカー外野手は「子どもですね」と柔らかな笑みを浮かべた

 試合を終えて、宿舎にまで向かうバス。2人が話す姿を写真に捉えていたのが、重田倫明広報だった。「仲良く話していましたよ」。意外にも思えるツーショットは、どのようにして実現したのか。ウォーカーが経緯を明かす。

「彼(前田悠の座席)は後ろじゃなかったんですけど、自分が座っていた一番後ろまで来てくれた。話していてもすごくいい子で、英語で話そうとしてくれるし。バスの時間も長かったので、いい時間を過ごせました」

 年の差で言えば13歳も離れているが、前田悠からのアプローチだったという。「自分が日本語をアプリで使って勉強していたんです。それを紹介したら、逆に英語を勉強するアプリを見せてもらった。それで彼と、日本語と英語を使いながら会話をしていました。日本語を教えてもらって、英語を教えるという感じでした」。異なる言語ではあっても、学ぼうとする姿勢は同じ。チーム宿舎に向かうわずかな時間でも、お互いに有意義な時間を過ごした。

 同期入団の岩井俊介投手からは「悠伍はガキンチョっすよ」とも表現される。先輩にタメ口を使う、ノックをせずに部屋に入るなど、左腕の“逸話”は数知れず。米国で生まれ育ったウォーカーは「日本人の社会で、自分もあんまり上下関係っていうのはわからずに見ているんですけど」と言いつつ、前田悠の印象を語った。

「彼も子どもだなってところもありますけど(笑)。悠伍はまずちゃんと挨拶に来てくれる。友達みたいな感じで話してきますけど、リスペクトは感じています。いろんな選手が最初は敬語とかを使ってくれるけど、僕は外国人選手でもあるし、友達みたいな感じで来てくれるのは嫌じゃないですね。彼だけじゃなくてチームメートはみんないい子です」

 前田悠の視点では、どうだろうか。席を動いてまで、自ら声をかけた理由を「あの時は普通にノリで一番後ろ行って話した感じですけど(笑)」と言う。その上で「英語を話せるようになりたいっていうのがあります。本場の人と話していたら、ちょっとでも上達するかなっていうのと、あとは普通にウォーカー仲良いというか、好きなので。普通に話します」と、当たり前かのように話した。

“普通に仲良い”というフレンドリーなやり取りの中にも、大切にしている相手へのリスペクト。19歳の左腕も「めちゃくちゃいい人ですよ!」と続けて強調していた。7月下旬に2軍管轄となってから、ウォーカーとの距離は縮まり始めたといい「その他のほとんどの(外国人)選手がスペイン語圏っていうのもあって、話せるのはウォーカーくらいなんですけどね。今のところ全然いけてますし、普通にいつも話します」とサラリと言ってみせる。

 大阪桐蔭高時代は、春の甲子園で優勝。全国の舞台を何度も味わうなど、野球が青春そのものだった。一方で、勉強の成績はどんなものだったのか。「うーん……どうですかね。英語はそんな難しい授業もなかったので、ある程度はできていました」と振り返る。具体的に聞いてみると「数学は3、40点くらいで低かったですね。その他は5、60点くらいは取っていたと思います」と、苦笑いで明かしていた。

 日本球界3年目を迎えたウォーカー。海を渡り、違った文化に慣れる大切さは身を持って知っている。前田悠の「英語を話せるようになりたい」という姿勢は、どんなふうに見ているのか。

「自分もそうですけど、他の国で、その国の言葉を話せるのは大事なこと。自分もわからないことがあってスピーキングやリスニングを勉強してきました。彼も、そんなすごく英語を話せる必要はないんです。本当にベーシックなものでいい。『ご飯を食べたいです』、『この場所はどこですか』とか、迷子にならないように。ベーシックな英語を話せることは、必ず役に立ちます」

 誰よりも負けず嫌いな19歳。語学に関しても「聞き取りはある程度できるんです。それを話すってなると、また難しい。もっと上達したいですね」と高い向上心を口にした。もし、前田悠伍が英語を完璧にマスターしたら――。多くの人から、きっと愛される。

(竹村岳 / Gaku Takemura)