43歳和田毅の起用法に“大胆提案” 山本由伸以上の「27.0%」を活かすデータ上の最適解

ソフトバンク・和田毅【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・和田毅【写真:荒川祐史】

登板機会を減らしている和田…最大の武器ストレートの数値に変化

 プロ22年目を迎えている43歳の和田毅投手。「大ベテラン」ながら、今季はここまで2勝をマーク。現在はファームでの調整を続けているが、その力はまだ健在だ。5月22日の楽天戦(京セラドーム)、6月2日の広島戦(みずほPayPayドーム)では計12イニングを無失点に抑える好投を披露。直球を軸に相手打線と真っ向勝負するなど、年齢を感じさせない投球を見せている。

 セイバーメトリクスの観点から見ても、パフォーマンスは太鼓判を押せるものだ。今季、和田の防御率は4.01と例年より悪化しているが、投球内容に関しては優れている部分も多い。セイバーメトリクスによる投手評価の基礎となる、奪三振と与四球の割合に絞って分析する。

 今季の奪三振%(奪三振÷対戦打者)は17.6%。打者6人に1人強のペースで三振を奪っている。ただ、これはほぼリーグ平均レベル。例年20%を超える和田からするとやや低い水準だが、奪三振の減少を与四球を抑えることでカバーしている。リーグ平均が7%強となる与四球%(与四球÷対戦打者)は2.9%を記録。これは今季20イニング以上を投げたNPB182投手のうち、6番目に優れた数字だ。

 一方で、和田にとって最大の武器である直球に目を向けると、やや厳しい数字が並ぶ。防御率4.01は例年よりも悪い水準にあるが、投球内容に踏み込むとデータが示すのは「球威の衰え」だ。

 奪三振%の低下については前述の通りだが、空振り%(空振り数÷スイング数)は、ここ3年で24.5%→22.4%→16.4%と低下。ストレートによる空振り%も同様に26.5%→18.6%→16.5%と下がっている。真っ直ぐの球威が低下し、空振りが減少。それが奪三振%の低下につながっているといえる。

 和田を取り巻く環境も変化している。その背景には、チームの先発投手陣が例年に比べて劇的に改善された事情がある。リバン・モイネロ投手の先発転向は大成功といえるものであり、有原航平投手もすでに10勝をクリアするなど、開幕から2本柱がしっかりと仕事をこなしている。モイネロと同じく今季から先発転向した大津亮介投手も主戦クラスに育ちつつある。

 和田にとっては厳しい状況ともいえるが、セイバーメトリクスの観点では今後も活躍できる可能性は十分に示されている。“鍵”となるのは起用法だ。

先発として重要なのは長いイニングを投げることか、点を与えないことか

 注目したいのは相手打線の「巡目別」データだ。先発投手は長いイニングを投げることが求められる。そのためには同じ打者との対戦が重なってくる2巡目、3巡目を抑え続けることが必要だ。打者は対戦する度に投手の球に目が慣れてくる。この「慣れ」との戦いこそが、先発投手にとっては最も乗り越えなければならない壁となる。

 実際に打者が投手の投球に慣れていく様子はデータからも見てとれる。2023年のNPBで、先発投手が1巡目の打者と対戦した時の奪三振%は20.1%だった。これが2巡目には18.2%、3巡目以降は15.3%と徐々に低下していく。一般的に打者は対戦を重ねるごとに打球を前に飛ばしやすくなっていることが分かる。

 和田はこの傾向がより顕著に表れている。2016年から2024年(8月8日終了時点まで)における奪三振%は1巡目の27.0%から2巡目には19.0%まで大きく低下し、3巡目以降は15.3%まで下がる。表グラフを見ると、和田の奪三振%を表す赤い折れ線が、NPB平均(水色)に比べて極端な右肩下がりとなっていることが分かり、打者の慣れの影響を非常に受けやすい投手といえる。

 これは和田独特の特殊なストレートが関係しているかもしれない。150キロを超える直球が当たり前となった現代野球の中でも、140キロをやや超えるほどのスピードで次々と空振りを奪う。「プロでもっとも速く感じたのが和田のストレート」と口にする打者も少なくない。ベテラン左腕の真っ直ぐはそれほど打者にとって面食らう球種である一方、対戦を重ねると特殊性も薄れていくのかもしれない。

 発想を転換すれば、打者の目が慣れる前の和田は手をつけられない投手ともいえる。和田の1巡目における奪三振%「27.0」は、昨季の山本由伸投手(現ドジャース)の数字「26.6」をも上回る。1巡目であれば「山本超え」の投手へと変貌する。1巡目のみ投げて、慣れられる前に降板する。こうした大胆な起用であれば、データ上は「超優秀な先発」となる。実際、今季も1巡目は20.0%と優れた奪三振%をマークしている。

ソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】
ソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】

 いわゆる「オープナー」や「ショートスターター」のような起用法は、ほかの投手のバックアップが大前提になる。本来の先発投手を和田の次に投げさせたり、第2先発を用意したりする必要があるが、投手陣の層が厚いホークスであれば可能性はゼロではない。データの面ではチーム失点をより多く防ぐことができ、和田個人にとってもチームにとってもメリットの大きい起用といえる。

 NPBには今なお「先発投手は5イニングを投げてこそ」という風潮が残っている。5イニングを投げなければ勝利投手の権利を得られないため、責任を果たしていないという考え方と捉えられるが、これは野球の本質から外れているともいえる。投手の目標はチームの失点を少しでも減らすこと。5イニングを投げずとも、その目標に近づくことはできる。

 もちろん勝利投手の権利を得ることはできず、残り40勝となっている200勝からは遠ざかる起用法にはなる。ただチームの勝利を考えた際、データ上では有効な一手でもあることは確か。今シーズンの終盤、またポストシーズンに向け、ベテラン左腕をどう使うかは首脳陣の力量の見せ所となるだろう。

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。