近藤&柳田以上…川村友斗が持つNPB屈指の“特殊能力” データが証明「48.5%」

ソフトバンク・川村友斗【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・川村友斗【写真:荒川祐史】

支配下を勝ち取り台頭…前半戦成績から明らかになった「強み」

 ホークスの快進撃を支えている要因のひとつは、強力な打撃陣だ。前半戦終了時点での1試合平均得点は12球団中トップの4.13点。近藤健介外野手をはじめ、主力打者の多くが“投高打低シーズン”とは思えぬハイパフォーマンスを披露している。その一方で、若手の台頭も無視できない。今季、念願の支配下契約を結んだ24歳、川村友斗外野手もそのひとりだ。

 シーズン開幕直前の3月19日に支配下入り。勢いそのままに1軍に定着し、4月23日?5月5日の間には11試合連続安打を記録した。一時期は打率4割を超えるなど衝撃的なスタートを切った。つい最近まで3桁背番号だった選手が1軍の舞台で躍動する姿は、何とも痛快だ。期待の新星は、詳しくデータを見てみると隠れた「特殊能力」も。今回は、川村がどんな選手であるのかデータ視点から紹介していきたい。

 ここ数か月は代走や守備固めの起用が増え、一時期よりは打撃成績も落ちたが、現時点での成績も十分に優秀といえる。まずは、前半戦終了時点の成績をリーグ平均と比較する。

 川村の打率/出塁率/長打率はぞれぞれ.261/.347/.330。OPS(出塁率+長打率)は.676を記録している。リーグ平均OPSが.644であるため、平均以上だ。打席数はまだ102と少ないものの、出場時はレギュラークラスの働きを見せている。特に注目したいのが、出塁能力。出塁率.347はパ・リーグで100打席以上に立った打者73人のうち15位。すでにリーグでも上位の出塁能力を見せている。

 高い出塁率には、もちろんヒットを打つ能力が役立っている。打率.261は、リーグ平均よりも2分も高い。ただ、出塁を増やすには四球を選ぶスキルも必要。四球率(打席のうちの四球の割合)を見ると9.8%で、リーグ平均(7.3%)を上回っている。ヒットを打つだけでなく、多く四球を選べることが川村の高い出塁率を支えている。

 なぜ多くの四球を選べるのか。答えは「選球眼」にある。以下の表2は、今季のNPBのボール球スイング率をランキングしたものだ。低いほどボール球をスイングしない、選球眼の優れた打者といえる。

 川村のボール球スイング率は22%。NPBで100打席以上に立った打者143人の中で、7番目に優れた数字だ。ホークスファンなら4位に入った近藤(21.4%)の選球眼はよく知るところだろう。ボール球を適切に見極め、四球を量産する姿が目に焼き付いているはずだ。川村は、その近藤と匹敵するほどにボール球をスイングしていない。

ボール球に手を出さないだけではない“優れた選球眼”

 選球眼が優れているのは「ボール球を見送る」点だけではない。川村は「振る選球眼」も備えている。これは、どういうことか――。

 そもそも選球眼とは「投球を選ぶ能力」のこと。いい打撃を見せるには、打つべき球、見送るべき球を適切に選ぶ必要がある。だが、「ボール球スイング率」ではボール球を見送れているかどうかしか測れていない。例えばボール球を多く見送るが、打ちごろのど真ん中の球も多く見逃してしまう打者の選球眼が優れていると言えるだろうか。ボール球を見送るだけでなく、打つべき球をスイングしてこそ真の「選球眼」と言える。

 その選球眼を測るにはどうしたらいいのか。【1】打つべき球(ストライク球)を積極的にスイングし、【2】見送るべき球(ボール球)をなるべく振らない打者を、真に選球眼が優れた打者と考えることができる。ならばこの「【1】ストライク球スイング率」と「【2】ボール球スイング率」の差を見れば、選球眼の良さが測れると考えられそうだ。

 ここでは【1】から【2】を引いた「S-Bスイング率」という評価方法を提案したい。ボール球を見極めながら、ストライク球を積極的にスイングするほど高くなる指標だ。川村は【2】ではNPB7位と上位につけていた。ではそこに【1】も考慮するとどうなるだろうか。以下の表3は、今季のNPBでの「S-Bスイング率」ランキングだ。

 川村のS-Bスイング率は48.5%。今季100打席以上を記録している打者全143人のうち4位とトップクラスの数字だ。ストライクスイング率は70.5%で、表のトップ10入りした選手の中では7位と比較的低い。ただ、川村以上にストライクスイング率が高い選手はいるものの、同時にボール球スイング率を抑えられている選手はいない。例えばチームメートの柳田悠岐外野手は川村よりも4.8%多くストライクをスイングしているが、同時に9.3%も多くボール球をスイングしてしまっている。「振るべき球をスイングしながら、ボール球はしっかりと見送る」という点で、川村はNPBでも屈指の能力を持っているのだ。

 とはいえ、このデータだけでは選球眼が本物とは言い切れない。ランキング上位10人のうち、川村の打席数は最も少ない102。一時的にこの成績が高く出ているだけの可能性も考えられる。しかし昨季の2軍成績を見ると、本物であることがわかる。以下の表4は昨季のファームにおけるS-Bスイング率だ。

 S-Bスイング率は50.2%。昨季2軍で200打席以上を記録した打者全113人のうち、なんとトップの数字である。優秀な選球眼は、1軍に定着した今季に限らず、昨季の2軍の時点で飛び抜けていた。

 当然だが、1軍と2軍の投手には大きなレベル差がある。2軍で好成績を残していても、1軍では結果を残せないケースも少なくない。だが、川村は1軍でも優秀な選球眼を発揮している。2年続けてトップクラスの選球眼を維持している能力は本物と言えるのではないだろうか。近藤のさらに次の世代にも選べる打者”が育ってきているようだ。

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。