小久保監督は言葉の「重みが違う」 後半戦“開幕”の意味…選手全員と握手を交わした理由

ソフトバンク・小久保裕紀監督【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・小久保裕紀監督【写真:荒川祐史】

5回と6回には周東佑京と今宮健太が好プレー…体現したのは指揮官の思い

 リーグ優勝という最大の目標に向かって、どんな思いで後半戦の開幕を迎えたのか。1つ1つの行動から、気持ちが伝わってきた。ソフトバンクは26日、オリックス戦(みずほPayPayドーム)に5-1で勝利した。小久保裕紀監督は「宮城が相手で2ラン2本なので、あれで今日の試合は優位に運べた」と振り返る。試合前から選手たちには、指揮官なりの“メッセージ”を発していた。

 初回、2死から栗原陵矢内野手が内野安打で出塁する。続く山川穂高内野手の15号2ランでいきなり先制した。さらに2死二塁から正木智也外野手に待望の1号2ランが生まれ、オリックス先発の宮城大弥投手から一気に4点を奪った。先発のカーター・スチュワート・ジュニア投手は6回まで無失点も、7回に2死満塁のピンチを迎える。ここで小久保監督は審判からボールを受け取ると、マウンドにまで足を運んだ。2番手の津森宥紀投手に直接、新しい球を手渡し、必死にリードを守ろうとした。

小久保監督と握手を交わす今宮健太【写真:竹村岳】
小久保監督と握手を交わす今宮健太【写真:竹村岳】

 2位のロッテに10ゲーム差をつけ、55勝29敗3分けで前半戦を終えた。試合がない期間が4日間あり、指揮官もオールスターに参加していただけに、久々にナインと顔を合わせたこの日。試合前から選手と1人ずつ、丁寧に握手を交わす姿があった。チームリーダーの今宮健太内野手は、小久保監督の姿から何を受け取ったのか。

「正直、後半戦っていうのは左右するところ。前半はいい位置でターンできましたけど、後半が大事になってくるんだと、より思いました」

 6回2死一塁の守備、西川が放った三遊間への打球を横っ飛び。二塁に転送して、ピンチを広げなかったプレーにも「カーターがリズムよく投げてくれていたからですね」と頷く。緊迫する中盤だっただけに、集中力を存分に発揮したシーンだった。5回1死では、頓宮の打球が左中間へ。中堅の周東佑京内野手が、ジャンプ一番で好捕した。「僕も打てていなかったし、どこかで貢献しないといけないと思っていた時にああいう打球が飛んできた。掴めてよかったです」と周東にとっても渾身のプレーだった。

 試合前の握手、小久保監督から伝えた言葉は多くない。「これからが勝負だから」。「後半戦もよろしくな」。野手との握手を終えると、次は投手のもとに行ってグッと手を握った。指揮官と最もコミュニケーションを取り“右腕”としてここまでの戦いを支えてきた奈良原浩ヘッドコーチは「俺はミーティングで話すから、握手はしていないんだけど」と笑う。その上で、小久保監督の思いを代弁した。

「監督は全員に『もう1回後半頑張ろうね』っていうことだったんだと思います。そうやって監督に回って言ってもらうって、選手的にはすごく粋に感じるというか、やっぱり『よし、頑張ろう!』って思うよね。監督っていうのは選手から見たら特別なものなんです。ミーティングっていうのはあんまりしないけど、要所での監督の言葉っていうのは選手には響いていると思いますし、重いですよね」

 今シーズン指揮官が選手やコーチ、全員を集めて発言をしたのは3回。3月29日、オリックスとの開幕戦の試合前が初めて。そして、柳田悠岐外野手が離脱した翌日の6月1日広島戦前と、6月8日のDeNA戦後の計3回だ。「やっぱりコーチである自分たちが言うのと、監督が言うのとでは重みが違う。そういう意味でも、選手に伝わるものがあるんじゃないかな」と、奈良原コーチも最敬礼する。全員を集めたわけではなくとも、試合前の姿は指揮官が伝えたかったメッセージそのものだった。

 この日の7回2死満塁で投手交代を告げた場面。小久保監督自身も「あそこは大里だったらカーター(スチュワート)に行かせようと思っていたんですけど、万が一、ホームランを打てるバッターが出てきたら代えるつもりでした。普段なら絶対に代えないんですけどね」と理由を語る。そして「後半戦のスタートなので」と、付け加えるように言った。ベンチに戻ったスチュワートも「みんながナイスピッチングと声をかけてくれたので嬉しかったです」と汗を拭った。

 1つの握手、1つの投手交代かもしれないが、指揮官の姿勢に呼応するように選手も結果で応えてくれた。選手会長の周東は、一戦必勝の姿勢は「何も変わらないです」とキッパリ言った。リーグ優勝という歓喜に向かい、小久保ホークスが最高のスタートを切った。

(竹村岳 / Gaku Takemura)