ポイントだった「近藤の後ろ」 目の前で敬遠…“屈辱”に燃えた正木智也の胸中は

ソフトバンク・正木智也【写真:竹村岳】
ソフトバンク・正木智也【写真:竹村岳】

3回2死二塁で近藤健介がストレートの四球…正木は空振り三振に終わった

 眼前の“敬遠”に、どんな胸中で打席に向かったのか。「僕で勝負だと思いました」。ソフトバンクは16日、ロッテ戦(みずほPayPayドーム)に4-1で勝利した。4番の山川穂高内野手が先制の2点二塁打、先発の有原航平投手が7回1失点で9勝目を挙げるなど、投打の柱が貢献した一戦。ダメ押し打を放ったのが、3年目の正木智也外野手だった。チームの鍵である「近藤の後ろ」を、どのように背負ったのか。

 両先発が無失点のまま迎えた5回だった。無死から今宮健太内野手、吉田賢吾捕手が連打でチャンスを作る。栗原陵矢内野手が犠打を決めて、山川が打席に立った。左中間を破る2点打で、主導権を握った。近藤健介外野手は左飛に終わり、正木だ。低めの直球を右中間に運び、3点目となる適時二塁打でリードを広げた。「前の打席内容を考えて、逆方向へと意識を修正しました」と振り返る。

「前の打席」は、3回に訪れていた。2死から山川が二塁打で出塁し、近藤を迎えた。結果は、ストレートの四球。正木に託されたが、低めの変化球に空振り三振に終わっていた。眼前の“敬遠”を味わい、次の打席でしっかりとやり返した。ロッテバッテリーの選択を、どんな胸中で見つめていたのか。

「(近藤さんと)勝負していないと思ったので、僕で勝負だと思いました。近藤さんなので当たり前ですし、そこで打つか、打たないかの役割が6番なので、そこに入れてもらっている以上は打ちたかったです」

 3回の場面では近藤に対して、初球は低めの変化球。その後も外角を中心にロッテバッテリーは攻めたが、正木にも「勝負していない」ということはすぐに理解できた。5回の適時打を振り返っても「前のチャンスで凡退してしまったので『なんとか打ってやろう』という気持ちと、配球も読みながら『こういうのが来るかなとは思っていました」と、頭を整理した中で打席に立つことができていた。

 5月31日の広島戦(みずほPayPayドーム)で柳田悠岐外野手が離脱した。それ以降、栗原が3番に入り、6番を務めているのは3人。正木と柳町達外野手、中村晃外野手だ。正木自身も「そんなに気になるものではないですけど、チームとして大事なところだとはわかっています。そのピースに自分がハマりたいなとは思っています。誰が前でも後ろでも、やることは変わらないです」と受け止めている。

 村上隆行打撃コーチも、6番がポイントであることは理解している。正木の適時打については「もう(山川の一打で2点が入って)楽になっていた。その前の3回の打席があいつの課題だと思いますよ。あそこ(5回)に結果を出したのも、それだけの技術はもう持っているので」と、評価と辛口が混じっていた。「技術を発揮するためのトレーニングというか、気持ちの調整ですよね。そこさえできればもっと結果は出せると思う」と、期待の言葉がどこまでも続いた。

「チャンスで(結果が)欲しい時って、誰でもビビるんです。誰でも通るところ。そこの割り切りがわかってくると、ああいうこと(3回の凡退)にはならないのかなと。いいボールが来ることはもうわかっているじゃないですか、相手はピンチですから。その中で、割り切っていけるか。強い気持ちで行かないといけないですし、チャンスに強いバッターになってほしいですね」

 正木は今季得点圏打率.421と結果を残している。村上コーチも「そこはわかっています」とした上で、勝ち越しや逆転、“冠”のつくような場面での一打も求めるのだから、期待は大きい。「近藤の後ろを打つということは、今後も試合が決まるような大事な場面で回ってくると思いますよ。そういう打順に置いているのはなぜなのか、みんな重みを感じていると思うんです。プレッシャーがかかるかもしれないけど、それを楽しめるようになったら、稼げるようになりますよ」。チームのため、自分自身のためにも、6番を託す選手に目立ってほしい。

 7月に入って、正木は14打数無安打も経験。9日のオリックス戦(京セラドーム)で安打が生まれた時には「本当に、ちょっとしたズレで全部がズレてしまうというのは感じました」と振り返っていた。その後も出場を重ねて打率.286を維持している。「その前の週で打てなくて、原因が自分の中でもわかったことがあった」。技術的な部分を修正したといい、今の結果に繋げている。最大のポイントでもある“近藤の後ろ”で結果を出すことができれば、より一層のアピールになるはずだ。

「気にしてもいいことはないので、自分がやることをやるだけです。チャンスで回ってくることがラッキーだと思えるように」。プロ3年目、悔しい経験ならもうたくさんしてきた。先輩たちに助けてもらった分だけ、今は自分がチームの力になりたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)