残り1か月と迫った、今季の支配下登録期限。残された4つの枠に食い込むために、育成選手による必死のアピールが続いている。鍬原拓也投手もそのうちの1人だ。自身3度目の育成契約を経験し、今の“残り1か月”という状態について「この時期を迎えるのは2回目です。あまり考えないようにしています」と、今の心境を包み隠すことなく語った。
今季でプロ7年目を迎えた右腕。2017年ドラフトで1位指名を受け巨人に入団するも、度重なる怪我にも悩まされながらも、2022年には中継ぎとして49試合に登板した実績を持つ。一方で、2度の育成契約を経験するなど挫折も味わってきた。2023年のシーズン終了後に戦力外となり、ホークスに入団した。今季はウエスタン・リーグで18試合に登板して3勝0敗2セーブ、防御率2.19という成績を残している。
前回の支配下登録は、2022年の3月だった。今季と2022年の状態を比較しながら、自身が感じる手応えにどのような違いがあるのか。巨人とホークス、球団は違うものの自分自身の過去を振り返る。今の自分には「圧倒」が足りないと、潔く認めた。
「前回支配下になれた時は、オープン戦や練習試合を含めて10試合連続ぐらいで無失点で抑えたり、ランナーも出さずに抑えることができていた。だからすぐになれたんだと思います。(そのまま)開幕もいい状態で入れて、9試合連続無失点とかだったので。圧倒するっていうところが、今は正直に言って足りていないんじゃないかなと思います」
2022年との一番の違いは打者を圧倒することができているか、という点。「ただ抑えるだけじゃダメだと思ってます。内容と圧倒できているか。2軍を圧倒できないと1軍では全然通用しない」。支配下登録されるだけではなく、プロ野球選手なら1軍で活躍することが最大の目標だ。自分の未来と真っすぐに向き合っているからこそ「正直に言って足りない」と、足元を見つめるような日々を過ごしている。
今季が開幕する直前の3月、鍬原は「ようやくキャンプインぐらいの状態になった……」と漏らすほど、状態が上がってこなかった。オープン戦でも1試合に登板したが防御率13.50とアピールできず。「スタートダッシュが遅れて、結局圧倒できなかった。『鍬原ってどういうピッチャーなんだろう』って見られた時に、『ん?』ってなったんだと思いますし、そこでアピール失敗したなと」。意気込む気持ちとは裏腹に、実力を出すことができなかった悔しさを滲ませながら語った。
今に目を向ければ、状態は確実に上向きだ。6月11日のオイシックス戦では先発登板して、4回を5安打1失点に抑える好投を見せた。主にリリーフとして1イニングだけの登板が多かったが「それ(先発)を7月までに1回、2回と経験できたのはよかったと思います」。柔軟に対応し、結果を残した。育成という今の立場を考えれば、適性はリリーフだけではないと示すことができたのも、アピールの1つとなった。
先発登板の直後には倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)から声をかけられた。「『先発したり、中ロングにしたりすると思うから。これはお前のいろんな選択肢を広げるためにやっているから』と言ってもらえました」。鍬原自身も「どこでも行けたら1人の選手として需要は十分高い。1軍に求められてるのは、そこかなと僕も思うので」と言う。与えられる場所がどこであろうと、今の自分は結果を出し続けていくしかない。
成長することを忘れずに、ひたすらに前を向くメンタルの強さが鍬原にはある。「現状維持は退化なので。(期限までに)あと何試合投げられるかわかんないですけど、投げた試合は圧倒したいなと。後半戦行けるなって思わせられるぐらいの投球をしたいです」。7月末までの残り時間で、必死のアピールを続けていく。