4年目にして手にした、嬉しい公式戦初勝利だった。普段から控えめな大城真乃投手は安堵の笑みを浮かべた。5月23日にタマスタ筑後で行われたウエスタン・リーグの中日戦。5回途中からマウンドに上がった大城は2イニングを2安打無失点に抑えた。ピンチの場面でも、冷静さを失うことなく、投内連携で抜群の動きを見せて、初めて公式戦の勝利投手となった。
2020年の育成ドラフトで7巡目指名を受け、沖縄・宜野座高からソフトバンクに入団。2年目の秋に球団が行った動作解析の結果、オーバースローよりも身体に合っていると判明したサイドスローへと転向。腕を下げたことで、真っすぐの最速は143キロから145キロに上がり、4年目の今季は「そもそも今年の目標が、公式戦で登板することでした」と語る。
記念すべき初白星は今季公式戦9試合目の登板だった。5回無死一塁でマウンドに上がると、安打を許して1死一、三塁のピンチ招いた。ここで大城は川越を一ゴロ併殺に打ち取った。素早く一塁へのベースカバーに入り、自ら併殺を完成させた。小笠原孝2軍投手コーチも「上手い」と認めるフィールディング。大城自身も「苦手意識とかはないです」と胸を張るストロングポイントだ。
高校時代の苦い記憶が糧となった。思い出すのは高校3年夏の沖縄県大会だ。「最後の大会、僕がミスして負けたんです、0-1で」。2回戦で大城のいた宜野座高は沖縄尚学と対戦。大城はエースとして先発。息詰まる投手戦を演じたが、バント処理で犯した自身の悪送球で失った1点が決勝点となり、敗れた。自らのミスで仲間との夏を終わらせてしまった。「人生で1番悔しかった」。その時ばかりは人目をはばからず、涙を流した。
1点の重み、細かなフィールディングの大切さを身をもって知ったからこそ、大城は人一倍、その能力に磨きをかけてきた。プロ入り後も投内連携やフィールディング練習を疎かにはしなかった。「今は自信があるので。もう大丈夫です」。悔し涙を流した夏を経て、今では自分を助ける武器の1つになった。
昨季まで2軍での公式戦登板はわずか1試合。50人を超える育成選手を抱えるホークスでは、2軍戦に登板するまでにも勝ち抜かなければならない競争がある。その中で、大城は今年、限られたチャンスでアピールを継続。ここまで10試合に投げて1勝1敗、防御率3.00。5月31日の阪神戦(鳴尾浜)で佐藤輝にサヨナラ3ランを浴びてしまったが、それまでは0点台と安定した投球を見せている。
「真っすぐも変化球も低めに集まった時は大体ゴロとかで打ち取れる。低めに行けば、全部がいい感じ。コントロールもバラバラにはならなくて、まとまった感じで投球できているかなと思います」。サイドスローに転向して2年目となる今季。コツコツと練習を重ね、フォームが体に染み付いてきたことが、結果にも表れるようになってきた。
沖縄出身でおっとりしたキャラクターの大城だが、心に秘める思いは強い。「支配下を勝ち取りに行きたいんで。キャンプはC組だったんですけど、(3月の)教育リーグから2軍にいられたので、そこでアピールできたかなと思います」。一度、自由契約になり、再契約を結んで迎えた4年目。口調には覚悟が滲む。
心中穏やかではない1年の始まりだった。C組でのキャンプインを知らされて焦りを感じた。「4年目なんで、もっと頑張らないとやばいなって……」。現実を受け止め、実戦が始まってすぐに結果を残すための準備へと気持ちをシフトさせた。春季教育リーグで登板機会を掴み、ウエスタン・リーグでもコンスタントにマウンドに上がっている。
実は涙もろい性格だ。最後の夏や卒業式で涙し、プロ入り後には「ドラマとか見て(笑)」と、気分転換で見ているドラマに感動し、部屋で1人泣いたことも……。ただ、野球で涙したことはプロ入り後はない。次、涙するのは支配下登録を掴んだ時か。「そうですね。でも、人前で泣くのは嫌です」。いたずらっぽく笑う大城が、喜びの涙を流す日を心待ちにしたい。