「僕がくじけたら若い子もくじけちゃう」 もどかしい状況も…後輩に寄り添う柳町達の心中

ソフトバンク・柳町達【写真:竹村岳】
ソフトバンク・柳町達【写真:竹村岳】

「苦しい時こそ乗り越えたら、もう1個深みのある人間になるんじゃないかな」

 後輩が溢した“弱音”に寄り添った。今の苦しい経験が、きっと自分を強くする――。柳町達外野手の“優しい強さ”を感じる瞬間だった。

 柳町は開幕から2軍でのプレーが続いている。ウエスタン・リーグで一時は4割を超える打率もマークし、常に3割以上をキープ。1軍昇格を掴んでもおかしくない成績だが、1軍の外野陣が盤石すぎるため、1度もチャンスは巡ってきていない。「2軍に落ちる時に、小久保監督から『4割打って来い』って言われたんで、今は4割目指して頑張ってます」。難しい状況にも、高い目標を掲げ、汗を流している。

 そんな時、自身と同様に開幕から2軍暮らしが続く井上朋也内野手と言葉を交わすことがあった。1軍は好調で、2軍の選手が付け入る隙はなかなかない。モチベーションを維持するのも大変な状況で井上から弱音が溢れた。「結果を出しても上がれないから、楽しくないじゃないですか」。そんな井上の思いを聞いた柳町は「ここを乗り越えたら楽やし、のちのちに生きてくると思うから」などと語りかけたという。

 柳町はこの時の心中をこう明かす。

「朋(井上)が僕に『あんまり気持ちが乗ってこないです』みたいな(話をしてきました)。気持ちはわかるんで……」

 後輩の思いに寄り添った。常に一生懸命取り組んでいるし、やるべきことも日々しっかりこなしている。それでも、結果を出しても1軍にはなかなか呼ばれない。井上や柳町に限らず、2軍で複雑な思いを抱いている選手は他にもいるだろう。

ソフトバンク・柳町達【写真:竹村岳】
ソフトバンク・柳町達【写真:竹村岳】

 柳町は一言、一言、ゆっくりと丁寧に思いを語り出した。

「いろいろな気持ちはあるんですけど、好きな野球でこういう苦しい状況を乗り越えられれば、上(1軍)に上がった時の強さというか、精神的な強さに繋がる。これを乗り越えたから成長出来るじゃないですけど、これを経験したからこそ1軍でも負けない強さにも繋がるだろうし……」

 さらに思いの丈が口を突く。

「野球がダメでも、こういう経験をできる職業って今後なかなかないと思うんです。やっぱり苦しいですけど、好きな野球だからこそ、乗り越えられたら、もっと楽しいものが見えるんじゃないかな、みたいな。(井上とは)そんな話をした感じです」

 たくさんのことを考えて、自分の心と向き合い、今を受け止めている。この現状を誰よりももどかしく思っているのも、柳町かもしれない。

「苦しい悩みだったりはありますけど、悩めている幸せじゃないですけど……。苦しい時こそ乗り越えたら、もう1個深みのある人間になるんじゃないかなとは僕自身思うんで」

 柳町は自らにも言い聞かせるように、井上との会話の内容を明かしてくれた。愚痴の1つでも言いたくなりそうなものだが、ただ必死に矢印を自らに向け、この苦しみさえも成長のチャンスだと前向きに受け止めようとしている。

「やること、自分のできる範囲のことをやることしかできないんので。それをここで崩して、もっとダメになったら、後々、後悔しか残らないと思うんです。なんとか乗り切って……。まだ始まったばかり、まだ1軍も40試合ぐらいしかやってないので」

ソフトバンク・柳町達【写真:竹村岳】
ソフトバンク・柳町達【写真:竹村岳】

 まだ5月下旬。ようやく交流戦が始まるところで、シーズンの折り返し地点さえ、まだまだ先だ。可能性ある限り、下を向くことはしない。

「より1軍がピンチな時に上がって、助けるじゃないですけど、そういう活躍ができる準備をするしかないかなと思っています。まあ、みんないろいろ思いはありますけど、僕がそれでくじけていたら、若い子たちもくじけちゃう、そういう気持ちになると思うので。そこは強く思いながらやるようにしようかなと思っています」

 後輩たちにも目を向け、優しい笑みを浮かべる。苦しい状況にも関わらず、周りにも目を配る。いつか必ず、チャンスは来る。その時まで前だけを向き続ける。柳町達はそう信じている。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)