決して積極的にコミュニケーションを取りに行く“陽キャ”タイプではない。基本的にはマイペースで「1人大好き人間」を自称する。育成3年目を迎えた瀧本将生投手はそんな性格も、野球のために、自身が成長するために、変えてきた。
2021年育成ドラフト11巡目で千葉の市松戸高から入団した瀧本は今季が3年目となる右腕だ。高校入学後に投手となり、経験は浅いが、武器とする縦に鋭く落ちるスライダーがプロへの道を切り開いた。昨年は右肩、左ハムストリングスを痛め、リハビリ生活が長引いていたが、先月、ようやく実戦に復帰することが出来た。
「フィジカルも上がったし、真っすぐもちょっと強くなって、成長は確実にしているなって自分でも思います。打者と対戦していてすごく楽になりました。あまり困らなくなりました」。これまでの最速だった145キロが、力まずとも出るようになった。直球でファウルが奪えるようになり、カウントを整えるのにも苦労しなくなった。成長を遂げているのは、その投球を見れば明らかだ。
そんな瀧本の性格、人柄が面白い。とにかく真面目で研究熱心。自分の長所を見るよりも「ひたすら欠点を探すタイプ」という。決してネガティブなわけではないが、「長所だけを見て自惚れたくない」と足元を見つめる。あまり群れたりもせず、1人で黙々とやるタイプ。そんな「1人大好き人間」を自称する瀧本が、上手くなるために殻を突き破ろうとしている。
リハビリ中の出来事だ。尾形崇斗投手が田中怜利ハモンド投手にアドバイスしている姿を見つけると「自分もいいですか?」。それまでは尾形とはあまり接点がなかったが、突撃した。それを機に、ブルペンやシート打撃に登板した際、瀧本は尾形に自身の投球動画を見てもらうようになった。尾形は瀧本の話を聞きながら、自分の考えを語ってくれたという。
「まず、尾形さんが『お前、キックバックが上手くない?』『これ出来たら絶対150キロ出るよ』って褒めてくれて。でも、『ここはもっとこうした方がいいんじゃない?』みたいな。それも、すごく丁寧に。『タッキーのタイプだったら、多分こっちの方が合うんじゃない?』とか。そうしたら、腕を振れるようになったんです。(リハビリ中の成長は)尾形さんが1番大きいですね」
それ以降、顔を合わせるたびに、尾形の方から声を掛けてくれるようになった。「『おー!タッキー!』って毎回言ってくれるんですよ。そんなことってあまりないじゃないですか。挨拶したらいつも名前を呼んでくれて」。瀧本は優しい先輩の気遣いに感激している。
もう1人が武田翔太投手だ。「武田さんも会う度に話しかけてくれるんです」。武田との初対面はルーキーイヤーだった。初めての春季キャンプ中、筑後で調整中だった武田が同期の風間球打投手に“伝家の宝刀”であるカーブを教えていた。その輪に、瀧本は勇気を振り絞って加わった。
高卒1年目のルーキーが1軍での実績もある主力選手に声を掛けるのは、並々ならぬ勇気が必要だったに違いない。「本当は積極的に行けるタイプじゃないですけど。腹を括って。(野球が)仕事なんで」。まだ3年目ながら、若手らしからぬ覚悟で日々を過ごす。その覚悟が見えるから、先輩たちも気に掛けてくれているのだろう。
今季の開幕前に支配下登録を勝ち取った仲田慶介内野手とは、夜間練習を共にする仲だった。仲田は大卒で、瀧本は高卒だが、同期入団。新人合同自主トレの頃から、夜のウエートルームでよく顔を合わせていた。仲田に「夜、よく練習するの?」と声を掛けられ、そこから“夜練仲間”となった。
個々で練習しつつも、手伝って欲しいことがあると、お互い助け合いながら汗を流した。仲田の走塁練習時に投手役を務めることもしばしば。仲田のストイックさにも刺激を受けながら、瀧本自身も良い時間を過ごした。“練習の虫”としても知られる仲田が、時に頼り、時にサポートするというのも、瀧本の野球に向き合うひたむきさを感じているからこそだろう。
入団時のプロフィールで、“最も大切にしていきたいこと”の欄に「義理と人情」と書いていた。リハビリ中からよくバッテリーを組んだ渡邉陸捕手について「バッテリーを組むってなったら、必ず陸さんの方からコミュニケーションを取りに来てくれるんです。色々話してくれて、終わった後も『ああだったよ、こうだったよ』って言ってくれて。本当にいい人じゃないですか。良い人にはちゃんと報いたいんですよ」と言葉に熱がこもる。プロ入りした時の思いは今も変わっていない。
「1人大好き人間」とはいえ、先輩たちから温かいサポートを受けるのは、実直に野球に取り組むが故だろう。「良い人には報いたい——」。先輩たちと1軍で共に戦うことが出来るようになれば、それは1つの“報い”になるのではないか。成長できるメンタリティは持っている。瀧本が這い上がってくる姿を楽しみに待ちたい。