心優しき右腕が救援陣の“アニキ分”になりつつある。ソフトバンクの津森宥紀投手が若手投手陣を支えている。ルーキーの澤柳亮太郎投手や岩井俊介投手ら、若手投手の口からは頻繁に「津森さん」の名前が出てくる。「食事に連れて行ってもらった」「声をかけてくれる」「準備の仕方が勉強になる」などなど。ルーキーをはじめ、若手投手にはなくてはならない存在になっている。
7日の楽天戦(楽天モバイルパーク)でサヨナラ負けを喫した澤柳は福岡へ戻る道中、津森が寄り添い、声をかけてくれたという。満塁弾を浴びた自身のデビュー戦の経験談も交えて「オレの方が悲惨だったから」と話してくれた、と澤柳は語っていた。その時のことを津森に聞くと「そんなに声かけたかな……」と笑いながら、こう思いを語った。
「みんなそういう経験をしているっていうのはありますよね。僕は1年目の時にすごいのを食らいましたし、だから『そんな気にしないでいいよ』って。アイツ、なんかめっちゃ考えていたんで『そんなん大丈夫やって』『これからもっとすごいのがあるよ』とは言いました」
確かに津森のデビュー戦は衝撃だった。2019年ドラフト3位で東北福祉大から入団し、新型コロナウイルスの影響で開幕が遅れた2020年シーズンで開幕1軍入り。開幕3戦目の6月21日・ロッテ戦(PayPayドーム)でデビューを果たした。先発の二保旭投手(現ロッテ)が危険球退場となり、無死満塁という状況でスクランブル登板。井上晴哉内野手にいきなりグランドスラムを浴び「初登板第一打者に満塁本塁打を浴びる」というプロ野球史上初の記録を打ち立ててしまった。
当時、津森も周囲の先輩らに「すごいデビューをしたんで『逆に持ってるな』って言われましたね」と声をかけられたという。プロの世界で“痛い目”を見ない選手はいない。澤柳もまだプロ2戦目の登板。今後、きっと何度も悔しい思いをすることになる。「澤柳もめっちゃいい経験だと思いますし、(2試合目で)すごいところで投げているなって思いますよね」。デビュー間もない状況で、緊迫した場面で投げさせてもらえることに感心するほどだった。
今季、ホークスの投手陣は昨季と比べ、若い面々が増えている。現在のブルペンには澤柳がおり、17日に抹消された村田賢一投手、開幕からしばらくは岩井俊介投手もいた。日本ハムから現役ドラフトで加入した長谷川威展投手も4日に1軍昇格してきた。26歳の津森と、同い年の杉山一樹投手は、ブルペンでも中堅の位置どころになる。
先輩としての責任感もありつつ、密かな寂しさからも後輩との交流を深めている。昨オフ、ホークス投手陣、特にリリーフ陣の顔ぶれは大きく変わることになった。長らくブルペンを支えた森唯斗投手、嘉弥真新也投手が構想外となり、それぞれDeNAとヤクルトに移籍。泉圭輔投手、高橋礼投手は巨人にトレードとなり、甲斐野央投手は山川穂高内野手のFA加入に伴う人的補償で西武へ移籍した。
仲良しだった大津亮介投手は先発に転向したため、中継ぎの津森とはリズムが合わなくなった。田浦文丸投手も怪我のためリハビリ組で調整中と、昨季までよく食事に出かけていたメンバーはことごとく不在になった。「寂しいと言ったらアレですけど、ご飯行きたいって時に(気軽に誘える)人がいないんですよ。下に行くしかない。年齢も自分はまだ下の方なんで、いろいろ話せることとかもあるでしょうし、面倒を見てあげないとまだ分からないことも多いだろうし……」。そんな状況も相まって、後輩たちに積極的に声をかけるようになった。
津森の“優しさ”を象徴するシーンがあった。12日から14日までベルーナドームで行われた西武戦。試合前の練習を終えた津森が右翼フェンスをよじ登るシーンがあった。ファンからグッズを受け取ってサインを書いた。「いつも応援してくれていますし、あれでもっと応援してくれるならいくらでも書きますよ。フェンスを登ったのは帽子を投げられなかったので、登ってみようかなと思っただけです」。ファンに丁寧に応対するところも、津森の魅力となっている。
今季はここまで6試合に登板して2勝0敗3ホールドをマークし、防御率0.00とまだ1点も失っていない。14日の西武戦では登板の増えていた松本裕樹投手に代わってセットアッパーを任され、3者連続三振の完璧なリリーフを見せた。そのピッチングでも存在感が高まっている津森。ホークスにとって欠かせぬ存在になっている。