育成選手たちの問題…一流が何か「わからない」 明石健志コーチが語る課題と責任

ソフトバンク・明石健志2軍打撃コーチ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・明石健志2軍打撃コーチ【写真:竹村岳】

和田毅からは苦言も…明石コーチが示したのはある種の理解「できない人もいる」

 指導者として若鷹と向き合い、2年目を迎えた。育成選手の現状を、どのように捉えているのか。ソフトバンクの明石健志2軍打撃コーチが22日、ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」を視察した。昨年末から、育成の選手に対しての苦言がチーム内でも相次いだ。ファームを知り、育成の選手を見てきたコーチの1人として何を思ったのか。指導者としての「責任」を受け止めつつ、背番号3桁の選手にしかない問題、持論を明かした。

 昨年末の契約更改、声をあげたのは主に和田毅投手と牧原大成内野手だった。和田は「育成の選手はプロ野球選手じゃない。ユニホームを変えてもいいくらい」と言い、牧原大も「自覚を持ってやらないと終わってしまう」とキッパリと言い切った。昨年、育成から支配下を掴んだのは木村光投手のみで、1軍登板はなし。結果にも表れている厳しい現実を、言葉にして真っ直ぐと突きつけた。若い選手たちが、今後のホークスを背負っていかないといけないこともわかっているからだ。

 明石コーチは2022年で現役を引退して、そのまま指導者に転身した。昨季に続いて、2軍打撃コーチを務める。現役時代に通算648安打。腰痛とも戦いながらグラウンドに立ち続け、栄光も挫折も味わってきた。1軍の試合には出られない若鷹たちの姿に、何を思うのか。明石コーチが語ったのは、ある種の理解だった。

「第三者から見たら『甘い』というのがごもっともなんですけど、何をしたらいいのかわからない選手に『意識を高く持て』というのも、これまた難しいことなんです。ある意味、どうやっていく方がいいのか、自分で考えてやらせて方向性を出してあげる方がいいのかなって。『意識を高くやれ』って言っても、どうやっていいのかがわからない」

「高い目標を立てすぎると、達成するまでも時間がかかるし、達成できないかもしれない。それを自分の中で少し低くして『これを達成したら次』とか、そういうふうにやってあとは自分たちで考えて自分の練習をする方がいいのかもしれないです」

 プロ野球選手に共通する目的は、1軍の勝利に貢献することだ。1軍にしかない緊張感や感動、やりがいや重圧が確かに存在し、2桁の選手でしか味わうことはできない。育成である限り、想像するしかないという現実に明石コーチは理解を示していた。和田が発した厳しい言葉にも「すごくわかる」としつつ、1軍の全てを「知らない子たちに言っても響かないし、わからないじゃないですか」とも。千賀滉大投手らのように這い上がった選手がいるのも事実だが、多くの育成選手を球団として抱え込む今、足りないものは明確な「道筋」なのかもしれない。

 明石コーチにとって和田はダイエー時代からの大先輩。山梨学院大付高からドラフト指名を受けた2003年、和田は14勝を挙げて新人王となった。「やり残したことがないんじゃないかっていうくらいですよね」と、心技体の全てで試合のために準備する姿を見てきた。その上で「和田さんは大学から入ってきて、自分の目標とか『こうなりたい』っていうものをずっと持ってきた人。だから一流としての考え方とかが、もうできあがっている。そういう選手ばかりではないし、できない人もいれば、わからない人もいる」という。和田が超一流の現役選手としての目線なら、明石コーチはファームのコーチという下からの目線で語った。

「ただ『やれ』と言って、キツい、長い練習をやらせるのは簡単なんです。やらせたところで疲れるだけならやらない方がいい」と、指導者からの“厳しさ”で強くなっていくこともできる。ただ、自分自身の志とモチベーションを胸に、自主性を持って取り組むのもプロの姿だ。選手たちが目的を持って日々を過ごすようなアプローチが、指導者側としてもできていなかったことを明石コーチは「(目標を)設定してあげられないこちら側の責任でもある」と受け止める。1人のコーチという立場から見ても、さまざまな要素をはらんだ問題だ。

 今季から「R&D」を担当する長谷川勇也さんは、球団がドライブラインを導入したことで「自分がこの感覚をものにしたいと思う練習が、練習。そういうのはちらほら見えている」と選手から変化を感じていた。数値からのアプローチで、少しずつだが確実に、選手は道筋を掴みつつある。明石コーチも「(これまでは)取り組みたくても取り組めなかった。わからないから。どうやってやっていくのか、それはこちら側の責任」と、指導者目線でも発見が多い期間となった。

 昨年12月には選手たちとともに渡米して本場のドライブラインにも触れてきた。「気づかせてあげるっていうだけの作業だとは思うんですけどね。あとはやるのは選手なので」。進むべき道筋と、目標までの距離感を正確に理解することができた時、選手にモチベーションが生まれる。1軍の勝利という最大の目標に向かって、育成選手も指導者も成長を続けるしかない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)