両球団広報による“優しさ”…松田宣浩が愛された理由 鷹SNSに動画公開された舞台裏

ソフトバンク時代の松田宣浩【写真:藤浦一都】
ソフトバンク時代の松田宣浩【写真:藤浦一都】

引退が発表された9月28日の夜、ソフトバンク公式SNSに松田宣浩の動画がアップ

 球団の垣根を越えた、異例のメッセージだった。巨人は9月28日、松田宣浩内野手が今季限りで現役を引退することを発表した。その日の夜、ソフトバンクの公式X(旧ツイッター)に公開されたのが、松田からホークスファンに向けたメッセージだった。福岡で17年を過ごした大ベテランとはいえ、今は巨人の選手。“熱すぎる”メッセージ配信の裏側には、実現に奔走した人物がいた。

 Xに公開されたのは、28日の午後7時ごろ。松田は約90秒の動画内で「ホークスの17年間があったからこそ、自分の最後の思い、願いで40歳まで現役でプレーさせていただきました。一生懸命、野球ができました。これも、福岡ソフトバンクホークスのファンのみなさんのおかげだと思っています」と話している。投稿は1万近くリポストされ、ファンからも次々と感謝、労いの言葉が届いていた。

 巨人の選手からメッセージをもらい、ホークスの公式のSNSにアップする。双方の理解と協力がないと実現しない異例のメッセージは、どんな経緯だったのか。西田哲朗広報が明かす。

「あれはジャイアンツから許可をいただいて。和子さんじゃないですか? (その前に和子さんから)電話がかかってきたので。『巨人の広報って誰かな?』って。で、この人ですって言って。それで、和子さんがされたんだと思いますよ。僕も、松田さんには連絡させてもらいました」

 立役者は、加藤和子ホークスオフィシャルリポーターだったようだ。本人も「巨人の広報の方とは別件でも連絡を取っていて。(松田選手のことで)寂しいですねって話をしていたら『よかったら、動画を撮りますので送りますよ』ということで。本人も喜んでくれるでしょうし、ありがたかったです」と経緯を明かす。ホークス側のニーズをとらえていた巨人広報からの歩み寄りがあった。

 西田広報も自身のSNSを使って、福岡のテレビ局で松田の引退会見が放送されることを宣伝した。「選手もみんな知らなかったと思うので、福岡で放送あるって。インスタグラムしかやっていない人もいるでしょうし、福岡の人にも見てもらいたいなって思って」。ホークスでも何人もの後輩が会見を見たといい、熱男の涙を目に焼き付けた。福岡を離れて1年が経っても、愛され続けていた。

 裏方さんの1人1人にも、松田の存在は色濃く記憶に残っている。西田広報は現役時代、2017年11月に楽天からトレードでホークスに加入した。2018年2月、宮崎の「生目の杜運動公園」で初めての春季キャンプ。「今でもよく覚えていますよ」。その初日の出来事だ。

「僕がトレードで来て『ファンの人に挨拶しとけ!』『スタンドに挨拶しろ!』って言われて。それで僕が、松田さんに言われたから『お母さんの名前が“敦子”(あつこ)です。敦子から生まれた男なので、アツ男~』みたいな(笑)。それが僕のスタートだったので、初日から自分も馴染みやすかったというか、ありがたかったですね」

 どんな時も明るいチームリーダーだった。「若手がパッと1軍に上がってきた時も、すぐに馴染みやすくしてくれるのが松田さんなんですよ。ホークスって出ている選手と出ていない選手で“ギスギス”しているとかないんですよ。松田さんは自分が出ていない時も声でやりやすい環境を作ってくれて。それを最初に感じましたね」と西田広報は続けた。一丸となる大切さを知っているから、松田は先頭に立ち続けた。その背中を、後輩が追いかけ続けてきた。

 松田は動画内で「ギータ(柳田悠岐外野手)、晃、健太、プラス自主トレ仲間のマッキー(牧原大成内野手)が必ずホークスを引っ張っていってくれると思います。自分はホークスOBとして、今後は陰ながらホークスを応援できる人間になりたいと思います」ともメッセージを送っている。

 最後の締めくくりはもちろん、こう言って拳を掲げた。「熱男!」。

(竹村岳 / Gaku Takemura)