涙ぐむほど激怒した瞬間「お前ら責任取れんのか」 小久保2軍監督の記憶に残る1試合

ソフトバンク・小久保裕紀2軍監督(左)【写真:竹村岳】
ソフトバンク・小久保裕紀2軍監督(左)【写真:竹村岳】

 ソフトバンクの2軍は9月29日、3年ぶり14度目のウエスタン・リーグ優勝を決めた。就任2年目で初めて優勝を手にした小久保裕紀2軍監督が鷹フルの独占インタビューに応じ、ファームの指揮官として貫いてきた育成哲学などを語った。30分を超えるロングインタビューを余すことなく、全文で公開。全3回の第3回は、指揮官が成長を感じる選手について。育成選手の名前を挙げていく中で、小久保2軍監督が「ウルウル」するほど、激怒する試合があったそうだ。

――監督のイズムが浸透してきたと感じることは。
「いやぁ……。節目節目で結構、叱り飛ばしたりをしたことはもちろんあったので。何に対して、怒られるかということくらいは、この選手たちはもうわかったと思いますね。要は当たり前のことを当たり前にしなかったというとことと、チームプレーに対してワガママは許さないよ、と。個人プレーは許さないよ、と。我々は個人事業主であっても、個人競技者ではないというところはわからせないといけない」

「その辺が、チームの士気を下げるとか、ワガママな行動を取った時には叱りましたし。当たり前のようにできるプレーをしない時には当然。でもその辺は一番、コーチの人が、僕が指摘しないといけないところを、全部コーチの人が言ってくれるようになってきたところは一番変わってきているところかと思います」

「僕が直接選手に言って変えるのは、先ほども言ったように“1個飛ばし”になるので。それはコーチがやってくれているというのは、組織としては正しい姿。僕が預かっている2軍ではそれは正しい姿になってきているんじゃないかなと思います」

――昨季まで2軍にいた緒方理貢内野手や三浦瑞樹投手、中道佑哉投手らを今季はなかなか2軍に置いておけなかった。
「利点は3軍を有効利用できること。2軍から落とすことができること。他の球団にはない利点なので、そこは使わせてもらいましたけど。もう1つは、選手の2軍で置かれている立場で言うと、バックアップの選手をいつも用意していることと、プラス育成の選手が入ってくるじゃないですか。今すぐに1軍はないけど2軍のレベルで、経験をさせながら上手くしていくバランスでいうと、今年に関してはピッチャーがほぼスタンバイになってしまったことは反省点です」

「反省というか、これって4軍が始まったことがプロ野球で初めてなので、当たり前ですけどトライアルアンドエラーなんですよね。今年やったことから来年またいい方向に持っていけばいいだけなんです。2軍の中でも、全員2軍でスタンバイじゃなくて、1つの育成枠を最初から設けておくみたいなことも非常に有効なんじゃないかと、そういう話も球団フロントとしながら」

「野手に関しては比較的、スタンバイの選手と育成の選手を併用できたんですけど。ピッチャーって6人しか先発がいない。そうなると前半戦はほぼほぼ1軍で、ここにいたらいけないメンバーで組んでいたので。三浦とか中道とか、重田もそうですけど。なかなか置いておくことができなくて」

「もっと言えば他球団、全く関係ないですけど。育成枠を撤廃とまでは言わないですけど、18人くらいまで使っていいというルールにならないかなと。これは球団に対する話じゃなくてNPBに対する話になりますけど。本来の使い方と違ってくるんじゃないかという危機感もあるんでしょうけど、これだけ預かっているチームの2軍監督として言うのは、5枠というのは非常に苦しいというか、運用が難しいと言うのは感じました」


ソフトバンク・仲田慶介【写真:竹村岳】

――王会長の監督時代には、小久保監督や城島健司会長付特別アドバイザーを「光って見えた」と表現していた。監督の目から見ても、仲田慶介外野手や西尾歩真内野手が、5枠の中でも光って見えた
「仲田は、去年なんで(育成ドラフト)14位なんやろって思ったんですよ。それって僕だけじゃなくて小川(史4軍監督)も思っていて。春のキャンプから、普通に1軍に入っていけるんじゃないのみたいな話を実はしていたので。外野手でいくと競争が激しいので、内野をさせましょうって話をして。内野2年目の子で、今セカンドで一番安心感あるじゃないですか」

「そういうふうに見て感じたプラス、結果を出し続けているじゃないですか。打率も.290くらい打っていて。規定打席に立っていたら余裕で首位打者ですよね。凡打の内容も、3割打つ子の内容なんですよ。自分のバッティングをした中での、正面だったね、いい当たりだったねっていう。3割打つ子はだいたいそうなんですけど、彼に関しては光るものもあったし。こっちからしたら14位(育成ドラフト)って何か問題あったのっていうような。野球以外のところで……って勘繰るくらい順位が低いとも感じたので」

「その辺は、彼に関しては今もそうですけど、外野も守れた方が。これは僕の見立てですけど、1軍に牧原大成っていう13年目にしてようやくレギュラーを、今は怪我をしていますけど、彼のようにスーパーユーティリティで“牧原2世”のところに組み込むのが一番の近道なんじゃないかと思っているので」

「牧原よりは足は遅いしスチールはできないですけど。でもショート、セカンド、サード、外野も全部守れるしって準備をしておく方がいいかなと。また最近、外野も準備させています」

――2023年のチームを振り返る中で、森唯斗投手の存在も大きかったと思いますが。
「もともと、どんな状況だろうが挨拶もきっちりできる子やし、人より声も出しているし。ヘッドの時に、クローザーで一緒にやっていますから。やられた時も、当然悔しいですけど『お疲れ様でした』ってバスに乗ってくる子なので。その辺はもう、どういう子なのかわかっていますよね」

「先発に回ると言いながら、チャンスを窺っている時の準備の仕方だったり。あれだけ実績を残した選手がこの暑い中で取り組んでいる中で、若手が何も思わないかと言ったら、やっぱり感じていますよ。さっき言ったいい手本になっているなという印象ですね。ファームですけど手本になる選手がいてくれると、正直、首脳陣はものすごく助かります。あのクラスの選手が少し違う方向に向いて、輪を乱すような感じになると、そこからの作業になるので。その点は一切なかったです」

「もっと言えば、彼の投げている時にしょうもないレフトとセンターの声かけミス(4月20日、ウエスタン・リーグのオリックス戦、タマスタ筑後)で、点を取られた時は、それを怒っている時にウルウルきてしまいましたね。腹立って。悔しくてというか、森に申し訳なくて。それくらいの取り組みをしていました。それはハッキリと言いました。『朝の7時から来て準備をしている。お前らそれ責任取れんのか』って生海には言いましたけど。それは、いい影響を与えてくれたかなって思いますね」


ソフトバンク・森唯斗【写真:竹村岳】Full-Count

――8月18日からのオリックス3連戦(タマスタ筑後)は3連勝すれば首位に立つ状況で迎えた。森投手は3連勝すれば投手会をやりたいと言って、後輩を引っ張った。2軍でも勝つ喜び、優勝への一体感が生まれていったように見える。
「昨年の最後に阪神戦で3連勝したらひょっとしたら可能性が出るって時に、初めて『この3連戦大事や』って話をして。あえてプレッシャーを与えました。結局負けて優勝はできなかったんですけど。もともと優勝は最上位の目的には来ていないですけど。来週の火曜日(9月12日)には初めて優勝という言葉を使ってみようと思っていて」※インタビュー取材日は9月10日

「全体の一発目のミーティングで『ここまで来たら優勝しようか』という話をしようと実は思っていて。それはなぜかというと、そういうふうに監督が初めて口に出して『いくぞ』って言った後の方が、プレッシャーがかかった打席、マウンドに送らせることができるという僕の判断です」

「これでバタバタって言ったら、本来は失格ですよね。勝つことだけのためじゃないので、その後の姿を見たい。9月に入ってからチャンスで普段通りに打てていない選手が逆に増えてきているのもわかっているので。だったら僕の口からハッキリとその言葉を出して、優勝できるかもしれないという今の位置を、有効利用させてもらおうという考えです。これは正解、不正解わからないです。でも決めるのは監督にしかできないので。そうしようと思っています」

「木村(光)が支配下になる時に『もうミスは許されんぞ』って。あと3登板全部行ったら、可能性あるぞって。1回でもダメなら……っていう時と同じですね。あの時は上手くいきましたけど。答えがわからないところに、どっちやっていうのが僕の仕事なので。あえてそうしてみようかなと。根拠は、プレッシャーをあえて与えてやる方が、ゆくゆくそいつらが1軍に行った時に、もっとプレッシャーがかかる場面があるのに、力を発揮できないと意味がないよねっていうのを考えると。火曜日、鳴尾浜でいいます」

――どんな姿になるのか楽しみですね。
「バタバタ6連敗するかもしれないですよ!? わからんけど、そういうふうにちょっとやってみようかなと。それまでは、選手には黙っておいてください。火曜日の後、監督から話があったの? っていう時に話が出てくるかもしれないですけど。火曜日の朝に話してみようかなと思っています」


ソフトバンク・小久保裕紀2軍監督【写真:上杉あずさ】

――指導者として喜びを感じる時はどんな時ですか。
「2軍で結果が出た選手、練習で取り組んできたことがゲームで表現できるようになってきたっていうのはもちろん嬉しいですけど。やっぱり1軍で活躍した時っていうのは、そりゃあ嬉しいです。自分が打った喜び、ファンが喜んでくれる喜びって経験はたくさんさせてもらったんですけど。自分が携わった選手が1軍の舞台で活躍できるっていうのは」

「直近だと井上(朋也内野手)ですけど。本人から連絡が来た時なんかは、そりゃ嬉しいですよね。それは、個人の競技者では味わえない喜びだっていうのは、この2年間で育成に携わらせてもらって、感じていることです」

――初安打を打って、連絡が来たんですか。
「電話がかかってきて。でも最初に言ったのは、2軍でやっていることをやらなかったんですよ。2軍は一塁への帰塁は全員頭からって決まっているんです。ルールで。でもあいつはヒットで出たら、初球の牽制で足から帰っていたんです。『ふざけんな』って言いました。次の日にミーティングで、2軍でやらせていることが、1軍の舞台でやっていないってことは俺らの指導力不足やから、俺らも反省しようっていう話はしました」

「上に行っても、2軍でやっていることが当たり前にできて、初めて指導が完結したと思った方がいいなと思って。こっちでやらせている間はまだまだだなって、井上のプレーで思いました。電話がきて『おめでとう』よりも先にそれを言ってやりました。でももちろん、活躍は嬉しいということですよ」

(竹村岳 / Gaku Takemura)