悲壮な覚悟「今年ダメならクビ」 疑心暗鬼の9年目…笠谷俊介が考える“くすぶる原因”

ソフトバンク・笠谷俊介【写真:竹村岳】
ソフトバンク・笠谷俊介【写真:竹村岳】

2020年は20試合に登板して4勝…今の課題は「いい投球を続けたい」

 悲壮な覚悟を持って、日々を過ごす。ソフトバンクの笠谷俊介投手は、今季が9年目。「今年がダメならクビだと思っています」との心境で、自分がやるべきことと向き合っている。課題として挙げたのは「いい投球」の継続。ウエスタン・リーグが開幕して1か月。今の胸中を語った。

「この日よかった感覚を、次の日に生かすにはどうすればいいかとか。いっぱい中継ぎで投げている人は、悪くてもいい投球ができると思うので。自分の中でもそういうものを続けていきたい。投球内容じゃなくて、いい投球を続けたいです」

 昨季は16試合に登板して防御率6.35。投球を安定させられず、1軍で定位置を築くことはできなかった。その日によって激しい調子の波。「いろんなことを気にしてしまう」と自己分析する。今春のキャンプ中は先発候補の1人として挙げられていたが、今は「何でも屋です。1軍の状況を想定しながら投げているつもりです」。とにかく戦力になることだけを目指して、左腕を振り続けている。

 マウンドでの自分は、考え込んでしまうタイプだという。「考えることが1個とかになればいいんですけどね。やっぱり感覚なんです。いろんなことができても、リリースに100%を持ってこないと意味がないので」。笠谷に限らずプロ野球選手の永遠のテーマだが、2軍で力を発揮できる選手がなぜ、1軍の舞台では思うような表現ができないのか。

「僕の場合は、本来投げられていた真っ直ぐが投げられなくなった。引っかかったりして、脳が覚えてしまった感じ。それが邪魔していて、何年もくすぶっている。自分を信じて投げられないし、メカニックが狂っているんじゃないかとか、疑ってもしまうので。継続することができなかった。1軍にいく選手は“核”があると思う。それがなくて引き出しばっかり……って、僕はそんな感じです」

 2020年には20試合に登板して4勝4敗、防御率2.84と結果を残した。笠谷にとって成功体験といえる年だが「あの時と今の真っ直ぐを比べたら、前の方がコントロールはできていた。でもトータルで見たら、今の方がいいと思うんです。空振りも取れて、常時の球速も上がっていますし」という。だからこそ、いま必要なものは、感覚だ。「わかりそうでわからないみたいな日々が続いています」と、取り組みと感覚がマッチするようにきっかけを探し続けている。

 15日時点でウエスタン・リーグでは6試合計5回1/3を投げて12奪三振。奪三振率20.25と圧倒しているが、本人は「三振は狙いにいっていますけど、僕の場合はいい日と悪い日があるので、それをなくすこと」と結果より抑え方にこだわっている。14日の阪神戦(タマスタ筑後)では満塁のピンチを招きながらも1回無失点。豊田、井上の2人の右打者から空振り三振を奪ったのはチェンジアップだった。

 武器は力強い直球と鋭く曲がるカーブ。チェンジアップに関しては「空振りが取れている中でも、右打者相手なら一番信頼度の高い球です。チェンジアップはキャンプからずっといい球なので、ウイニングショットになりつつあります」と確実に手応えを感じている。リリーフなら空振りを取れる能力は高い方がいい。「ここ一番で出された時に、決め球として使えると思います」と新しい武器を磨いているところだ。

「これかもな……と思うのに、疑心暗鬼になりながら取り組んでいます。もうやばいです、ちゃんとやらないと。気負わずに、自分のやることだけをやって、信じたいと思います」

 何かを決意した表情というよりは、その顔は少し曇っていた。昨年12月に一般女性と結婚したことを公表したばかり。「失うものは何もない」のではない。守りたいものがあるから、笠谷は戦う。

(竹村岳 / Gaku Takemura)