危機感たっぷりにキャンプインを迎えた。「どっちかと言うと焦りですよね」と語るのは育成4年目を迎えた石塚綜一郎捕手だ。筑後で迎えた春季キャンプ。「みんなと一緒に宮崎でスタートしないといけないのに。1日でも早く上に行かないといけない」。いち早くアピールし、宮崎への昇格を目指す。
打撃が持ち味の捕手。ただ、石塚は言う。「持ち味を生かすのは当たり前なので。課題である守備をクリアしていかないといけない。課題をクリアしないと、バッティングがいくら良くても上には行けないと思うので、課題の守備を頑張りたい」。長所を伸ばすだけでなく、シーズンオフからディフェンス能力を磨くべく練習に励んできた。
今年1月の自主トレでは、捕手ながら、チームの先輩である森唯斗投手、嘉弥真新也投手ら投手陣が集まる合同自主トレに参加した。ピッチャーの自主トレだけに、当然、打撃練習の時間はない。“捕手力”を磨くことに力を注いだ。「シーズンに向けての調整の仕方という点も勉強になりましたし、ブルペンの大事さを1番感じました」と、石塚は充実の自主トレを振り返る。
ブルペンの大切さとは――。指摘してくれたのは森だった。「ブルペンを1番大切にしろ。いかに試合に近付けるか。ブルペンは練習の場所じゃなくて本番の場だと思ってやらないと」。これまでは投手の投げたボールを「上手に捕ろう」とキャッチングへの意識が強かった。森に指摘されたのは、さらに上の次元の話だった。
「その上を行かないといけなかった。1軍投手の球を捕れる経験はいいんですけど、その中で自分をもっと出していかないといけなかった。1軍の人達にも萎縮することなく、自分を出していかないと、この世界でやっていけない。石塚というキャッチャーをどう出していくのか、というのが大事。ただ声を出して『ナイスボール』って言って捕るだけなら自分でもできると、森さんに言われました。どうコミュニケーションをとっていくのか、自分の思ったことをどう伝えるのかとか、そういうところで自分を出していかないといけない」
自身に足りなかった部分を痛感し、受け止めた。自主トレで学んだことを胸に、キャンプでもブルペンでボールを受ける。「初日に(小林)珠維の球を受けたんですけど、すごい悩んでいそうだった。それでテンポが悪くなっていたので、投げ終わってからちょっとアドバイスをしました」。今季、野手から投手に再転向した小林がブルペンで試行錯誤する様子を感じ取り、早速コミュニケーションを図った。
「キャッチャーとして、こうしろああしろって絶対言えないんですよ。投げるのはピッチャーなんで。アドバイスを促すのがキャッチャーの仕事。ピッチャーは頑張って投げているので、ああしろここしろって言われたくないと思うんですよ。だから、ピッチャーへの意識付けというか」
こうした投手を思いやる心配りは、東浜巨投手からアドバイスを貰ったのだという。とにかく捕手として成長するために、実績のある先輩たちにも臆せず質問し、意欲的に学んできた。高谷裕亮2軍バッテリーコーチにも日頃からたくさん話を聞いてきた。“捕る仕事”以外の投手との共同作業、コミュニケーションの大切さや難しさを実感した。「やっぱりそういう所で、拓也さんは信頼がある」。甲斐拓也捕手が正捕手に座り続ける理由も感じた。
打撃が持ち味の“打てる捕手”は言う。「いくら打ってもダメなんですよ」。それほど今は守備への思いが強い石塚。ただ、今いる筑後では「バッティングはこの中で群を抜いていないとダメ」とも自覚する。“打てるキャッチャー”というポジションで守備に磨きをかけ、這い上がっていく決意を滲ませた。