オフシーズンになっても、筑後のファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」では、育成選手らが練習を続けている。オフになると支配下選手は各々でトレーニングに励むことになるが、育成選手たちは筑後でトレーナーたちの指導のもとで合同で練習を行う。この「育成練習」は、年内は12月25日まで行われる。
オフシーズンになるとコーチ陣からの直接指導は出来ない。そのため育成練習ではスタッフや来季からスタートする4軍の担当コーチが練習を補助する。ウオーミングアップ中から元気よくチームを引っ張る存在がいる。今季3軍のストレングス&コンディショニングを担当した岡本正靖コンディショニング担当だ。
練習前や試合前に行うウオーミングアップへの臨み方、モチベーションの大切さを強調。「アップは試合のための準備、練習のための準備という位置づけですごく大事な時間」という。
ホークスのファームでは、ウオーミングアップの時間を15~20分とっているというが、岡本さんは「理想論で言ったら、各自でやらせて、最後のダッシュだけみんなで合わせればいいと思う。だけど、まだまだ自分たちで何をやったらいいかわからないという子達が多いから、そこはこっちがサポートする。こういう考え方でやっているんだよって言うところまで伝えていくのが今年の作業です」とホークスでの1年目を振り返る。
各々がもっと自発的に準備できるようになれば、全体のアップは5分で終わるという。ただ、そのためには「その前の準備段階を個々でやっておかないといけない」。昨季まで投手コーチを務めて、今年レンジャーズなどでコーチ研修を受けていた倉野信次氏による講演会では、メジャーリーグは全体でのウオーミングアップを5分しかとっていないという話を聞いたという。全体アップ前の段階で自分の準備をしっかりするから出来ることなのだ。
岡本コンディショニング担当はホークス入団前、オリックスのファームでトレーニング担当を務めていた。「金子千尋さんとかは集合の2時間前に来て、午前9時15分の全体アップに合わせていました」と、実績を残す選手の準備力の高さを目の当たりにした。また、レッドソックスへの移籍が決まった吉田正尚外野手のことを「自分で考えてしっかりやれる選手」と評し「正尚は全体アップでみんなのリズムに合わないことがあるんですが、自分の動きをやり続ける。みんなとズレていても、自分が必要なことだからやっているという感じですね」と見ていた。
ホークスでは1軍の選手を見る機会はなかなかないが、今季はケガでリハビリ組暮らしとなっていた栗原陵矢外野手の姿は若手に見習ってほしいという。「パッと見渡した時に、やっぱり自分で身体を意識して動かしてるなというのが見える。それに、栗原選手のように自分で自分のモチベーションを上げられる選手は貴重。チームにとってもいい」と話すのは、ウオーミングアップには身体の準備の他に“心の準備”の意味合いもあるからだ。
「試合、練習に対して身体が辛いとか、今日はしんどいなとか、それぞれ日によってあると思うんですけど、フィールドに立ったらプロなので、どれだけ100パーセントの準備が出来るかが仕事。そのために気持ちが落ち込んでいても、何かをキッカケにして気持ちを上げないといけない。それをこっちのキッカケで、アップの中で笑いが生まれたり、コーチの元気な声掛けがあったり、アップの中で気持ちを上げていく作業もしていかないといけない」
日によって変化をつけたり、時折ゲーム感覚で行うようなアップメニューもあるが、それもモチベーションを上げるなどの“心の準備”の一環でもあるのだ。栗原のように自分で自分のモチベーションを上げられればいいが、全員ができるわけではない。そのため、コンディショニング担当として気を配らなければいけない。「3軍の選手はまだやらされている感じ。自発的に自分のために意識してやる子が増えてきたらいいと思います」と期待する。
最近の状況への危機感もある。「どうしても今は、動画もすごくあって、何をすれば球が速くなるとかの方法論が分かる。でも、その本質を理解せずに動きだけをやってしまう人もいる。トレーニングでも、表面的なところをなぞるだけの真似ごとになっちゃう」。選手によって筋力も違えば、身体の成長度合いも異なる。それぞれの現状に合わせてやるべきトレーニングを、筋力不足や身体の安定性がない中でいきなりやることで故障のリスクも上がってしまうという。
「そこを見極めてあげるのが我々の仕事。本質を理解しないでやっている人が多い。これがあるから、こういうパフォーマンスに繋がるんだよ、というのを理解させる時間が大切」と岡本コンディショニング担当は語る。ウオーミングアップやトレーニングの内容、やり方、仕組み、意図まできちんと伝えることを意識してきた。
ホークスでコンディショニングを担当して1年。「(選手たちの意識は)まだまだです。でも、それが簡単ではないことはわかっています。自分が大学1年生の時に出来ていたかと言われたら難しい。ある程度の基準を与えてあげて、気付きを与えて行動が変わるように繋げてあげないと将来的に選手のためにならない。全て与えちゃうと自分で何も出来なくなる。少しでも自分で考えてやれるようになって欲しい」と選手に寄り添いながら、若鷹たちの成長を支えている。