鷹・小久保2軍監督も絶賛 1軍昇格候補に挙がった黒瀬健太の7年目の成長と胸中

ソフトバンク・黒瀬健太【写真:上杉あずさ】
ソフトバンク・黒瀬健太【写真:上杉あずさ】

ここまでウエスタン・リーグで2位の5本塁打を放つ

 コロナ禍の救世主として白羽の矢が立つかもしれない。ソフトバンクの育成選手の黒瀬健太内野手が支配下復帰に向けて猛アピールを続けている。今季は2軍で出場を続け、打率は3割超え。現在ウエスタン・リーグ2位の5本塁打を放っている。1軍に新型コロナウイルスの陽性者が続出し、藤本博史監督の口から代役候補の1人として名前が挙がった。

 黒瀬は2015年のドラフト5位で入団するも、1軍出場がないまま、2018年オフに戦力外通告を受けて以降は育成選手としてプレーし、今季がプロ7年目を迎えている。1年目から6年目まで、2軍での打率は毎年1割台。昨季は春先にインパクトを残したものの、シーズンを通してアピールを続けることは出来なかった。

 苦闘のシーズンが続いていたが、今季はこれまでと異なる姿を見せている。既にキャリアハイの4本塁打を超える5本塁打。バッティングの内容にも目を見張るものがあり、小久保裕紀2軍監督からも「めちゃくちゃ内容いいですね。めちゃくちゃいいです」と絶賛されている。ただ、当の本人は「与えられたチャンスで結果を残すのみです。(支配下のことは)心の片隅に置くくらいで」と冷静に野球に向き合っている。

「腹をくくっている」――。

小久保2軍監督も評価「誰を4番にしようかなと思った時、アイツくらいしかおらんと思った」

 黒瀬はそう言い切る。「去年も一昨年も当然、育成なのでチャンスは少なかったし、その中で結果を出さないと支配下にはなれない。打てないとクビになる。そう思って野球をしていました」。結果を欲しがるがあまり、打席への強い思いが悪い方に働いていた。ただ、今年は違う。「色々な人と話をして、いい意味で“なるようになる”と思えているんです。打てなくても、やることをやったと思えるようになった」。結果に一喜一憂するのではなく、そこに向けた準備に意識と力を注げるようになった。

 この6年間、悔しい思いは数多くしてきた。たとえ1試合だけ結果が出ても、それを続けられないと、試合に出られないことを身をもって感じてきた。ひとたびノーヒットが続けば、すぐ3軍行き。置かれた立場は、自分が痛いほど理解している。「ずっと結果を出してやろう、使わない選択肢がないくらい打っていこう。『見とけ!』『見返したろ!』という気持ちです」。向上心と反骨心が今季の黒瀬を後押ししてくれている。

 28日のウエスタン・リーグの阪神戦では、育成選手でありながら、4番で起用された。1軍での実績のあるリチャード内野手や中谷将大外野手、助っ人のガルビス内野手らを押し退けての抜擢だった。小久保2軍監督は「選手がゴソッといなくなったとはいえ、誰を4番にしようかなと思った時、アイツくらいしかおらんと思った」と言う。この言葉こそ、黒瀬の現在の好調ぶりを表している。

 これまでは外角のボールに粗さが目立ったものの、その課題も克服しつつあるという。26日に大分で行われた同リーグのオリックス戦ではバックスクリーンへの特大アーチも放った。「脆さが無くなったかなと思います」と小久保2軍監督も成長に目を細める。藤本監督は1軍の昇格候補について「リチャード、中谷、育成の黒瀬、あとは増田。この4人の中で1人を考えている」と語る。いま、2軍で最も“ホット”な男。7年目の苦労人に白羽の矢は立つのか。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)