元ドラ1右腕が明かす盟友への思い…「今年にかける思いは、僕以上だった」
“盟友”の戦力外を、ホテルの夕食会場で察知した。ソフトバンクは7日、8人の育成選手に来季の選手契約を結ばない旨を通告した。そのうちの1人がプロ11年目の29歳、古川侑利投手だった。昨年オフにソフトバンクとの育成契約を結んだ鍬原拓也投手が、辛い宣告を受けた右腕の思いを代弁した。
同学年でもある2人。鍬原が巨人でプレーしていた頃から親交があり、今年1月には自主トレを共にするほどの間柄だ。そんな鍬原が戦力外通告から一夜明けた8日、前日の出来事を明かした。「あぁ……呼ばれたんだ。福岡に帰ったらしい」。連絡を取ってはいなかったが、6日の夜に“それ”と分かることがあったという。
「6日の昼に、ご飯を食べに行こうってフル(古川)に連絡したんです。そうしたら、もうナベ(渡邊佑樹投手)と2人で(食事に)行っていたらしくて。もうデザートを食べるところだと言われたので、一緒に食べられなかったんです。その夜、フルとナベの荷物が食事会場のところに置いてあって……。誰かが『福岡に帰ったらしいですよ』って。夜ご飯の時にみんな気づきました」
5日にはファーム日本選手権が宮崎で行われ、古川と渡邊佑はマウンドに上がっていた。7日からは同県でフェニックス・リーグが開催されているため、ファーム選手権に出場した選手たちは福岡に戻ることなく、6日のオフを過ごしていた。しかし、その日の夜に2人の姿はなく、残されていたのは野球道具だけだった。
鍬原も2017年ドラフト1位で巨人に入団しながら、これまで3度の育成契約を経験している。「正直、立場はかなり分かるので。なんて声をかけていいのか分からないです。だから、あえて連絡はしなかったです。変に言葉をかけても……っていうのもあるので」。
昨年の同時期には鍬原自身も巨人から戦力外通告を受けた。同じ立場を味わったからこそ、痛いほどに気持ちが理解できた。「僕が逆の立場だったらすごく悔しいですし、去年もそうだったから。フルはどうか分からないですけど、僕は声をかけてもらっても、すぐに返せなかったというか……。そういう気持ちだったので。だから、あえて連絡はしなかったです」。チームを去ることとなった古川の気持ちを、どこまでも感じていた。
古川がこぼしていた不安…「最近投げたら失点するわ」
何としても支配下登録選手に――。今年にかける思いは互いに同じだったが、古川の気概には焦りすら感じられた。ソフトバンクへの入団が決まった鍬原は、自主トレを行う場所探しに困っていた。「たまたま『フルどこでやってんの?』って聞いたら、『佐賀でやってる』っていうので、一緒にやらせてもらいました」。鍬原から声をかけてトレーニングを共にすることとなったが、古川の仕上がり具合に驚かされた。
「あいつバンバン投げていたので。1月の初めの方なのに、肩が仕上がっていました。僕も負けているつもりはなかったですけど、ちょっとこれは『やばいな』と思っていました。今年にかける思いは、僕以上に感じましたね。僕も今年、チームが変わるっていうことで気合いを入れていたんですけど、フルは次に向かう準備がすごくできていた。その決意というか、意気込みというか。すごい決意があったんだろうなと思い出しました」
古川の気持ちとは裏腹に、シーズンが始まると思うような結果が出なかった。「『最近投げたら失点するわ』って、前半の方からずっと言っていた」。不安な気持ちを鍬原に漏らすこともあったという。
それでも、古川は諦めることなく状態を立て直した。シーズン終盤には9回を託されるようになり、ウエスタン・リーグの優勝を決めた試合ではセーブも記録した。「最終的にはいいポジションで投げられるようになっていて。努力って見てくれる人は見てくれているし、それが結果に繋がるんだなって、すごく感じました」と鍬原。同学年の右腕との別れは、巨人時代を合わせて2度目となる。盟友が見せた決意と姿を、いつまでも忘れはしない。
(飯田航平 / Kohei Iida)