3日の日本ハム戦で栗原陵矢が味わった2度の申告敬遠…山川穂高はどう見ていたのか
プロ10年目を迎えた。栄光も挫折も味わった今、自分自身の感情をどのようにコントロールしているのか。ソフトバンクの栗原陵矢内野手が、7日のロッテ戦(ZOZOマリン)で先制の11号2ランを放った。3番打者として存在感を示し続けている後輩の姿を、4番の山川穂高内野手はしっかりと見ている。今の栗原にとっても「一番大事」だという言葉の真意に、迫った。
7日のロッテ戦、初回からチャンスで回ってきた。1死一塁で打席に立つと、マウンドには左腕・メルセデス。スライダーを振り切ると、打球は右翼ポール際へと消えていった。「肩口から入ってくるスライダーにうまく反応することができました。しっかりと自分のバッティングができたと思います」と振り返る。チームは敗れてしまったが、栗原には今月2本目の本塁打が生まれた。リーグ優勝に向けてもう1度、勢いをあげていきたいところで栗原が上昇気流を描いている。
栗原の本塁打は、4日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)以来、2試合ぶりだった。7-8で敗れた3日の同戦では、目の前を打つ今宮健太内野手が2度の申告敬遠で歩かされ、自分がチャンスで凡退した。5回でも三塁守備で失策を犯してしまい、その後に有原航平投手が清宮に同点3ランを浴びた。チームも敗戦となっただけに、その夜の心境は「難しかったです」と激白する。
「なかなか難しかったですし、そんなにうまく切り替えることもできなかったですけど、やるべきこと、自分がやりたいことをしっかりとやること。あとは相手投手としっかり対戦することを意識しながらという感じでした。そんなにスッキリして(4日の)試合に入ることはなかったです。自分のメンタルを変えることができるのは試合で結果を出すしかないと思っていました」
ミスを悔やむような夜でも、翌日の試合にも備えなければならない。「起きている間に『明日どうなるのかな』っていう不安だったりとか、バットを握りながら。これでいいのかなって考えていました」と明かす。自宅でもバットを握れば当然、自然と構えを取る。「大海(伊藤)の軌道をイメージして、考えて振ったり」。日付が変わる前には眠っていたそうだが、10年目で多くの経験を積んできた栗原ですら「難しかった」夜だ。
4日の日本ハム戦で伊藤大海から一発を放った時も、塁上で表情を緩めることはなかった。「昨日(3日)の自分の情けなさもそうですし」と認め「試合が始まる前からヘッド(奈良原浩ヘッドコーチ)と『今日がすごく大事になってくる』という話もしていました」と明かした。ミスをしてしまった翌日だけに、結果はもちろん、自身の姿が見られていることは、栗原が一番感じていた。
グラウンドの上では表情も豊か。元気いっぱいの笑顔をファンに届けてくれるが、3日に2度、チャンスで凡退した時は表情に出さなかった。嬉しい時は喜べばいいが、意図的に負の感情は秘めているようにしているという。「小久保監督に『これからチームを引っ張っていく選手として、そういう姿を見せない方がいい』と。直接言われたわけではないんですけど」。自分1人は悔しいかもしれないが、試合が動いている以上、勝つための行動を最後まで取らなければならない。指揮官の思いが伝わっていることは、栗原自身の振る舞いを見れば明らかだ。
「もちろん打てなかったら悔しいですし、ゲーム中ですから。引きずっていても仕方ないですけど、負けっていうところが決まった瞬間は責任をすごく感じます」
柳田悠岐外野手が5月31日の広島戦(みずほPayPayドーム)から離脱。6月1日以降、全ての試合で栗原が3番に入っている。目の前を打っている後輩の姿を、山川はどう見ているのか。今月3日の日本ハム戦で凡退した後も「プロ野球ですから、トータルなので。そういう打てない日もあれば、全員で戦っている。ヒーローって日替わりになるものですよ」と語るなど、寄せる信頼は一切変わらない。
目の前の打者が歩かされ、自分との勝負を選択される。山川も「それは悔しいです。全部悔しいんですけど、申告敬遠されて自分が打てなかったら悔しいです」と代弁する。今季の全試合で4番を託されている主砲も、栗原と同じく試合中に負の感情は出さないようにしているといい「ムカついていますけどね。感情を思い切り出す人と、そうじゃない人。どちらでもいいと思うんですけど、次に引きずらないようにすることがプロ野球では一番大事なことです」とキッパリ言った。
重圧と緊張が繰り返されるプロの世界。山川は常々、メンタルのコントロールも「技術」だと表現する。「毎日が切り替えです。打てた日も打てなかった日も、また明日だし、また次です。結果的に技術がある人に数字は残るものですから、その技術を上げるために練習するだけです。技術があれば、気に病むことはないと思いますよ」。8月に入って、確実に調子を上げてきた栗原にもピッタリと当てはまるような言葉だった。悔しくて寝付けないような夜を過ごしているのなら、それはプロとして成長しようとしている何よりの証だ。
結果を残すために技術を磨いて、徹底的に準備する。栗原は「まだまだメンタルに左右されるところはあります。全部がすぐに切り替えられるかって言われたら無理ですけど、なんとかやっていきたいと思います」と、神妙な面持ちで語っていた。プロとして戦う真剣な表情はもちろんだが、勝って心から喜ぶ栗原陵矢の笑顔が、やっぱり見たい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)