倉野コーチが語る“強さのジレンマ”「自分も選手だったので気持ちはよく分かる」
投げる機会がないことを嘆くよりも、投げさせたくなるように成長すればいい。7日のロッテ戦(ZOZOマリン)。1週間ぶりのマウンドとなった長谷川威展投手のピッチングは、気概を示すには十分の内容だった。
2点ビハインドの5回に2番手でマウンドへ。先頭の藤岡を見逃し三振に取ると、初回に3ランを放っていたポランコにも真っ向勝負。外角のスライダーで空振り三振を奪った。最後はソトを中飛に打ち取り、危なげなく3者凡退。久しぶりの登板とは思えない落ち着きぶりだった。
現役ドラフトで今季からホークスに加わった変則左腕は、ここまで自己最多を大きく上回る20試合に登板して防御率2.55。開幕9登板で4勝を挙げる“勝ち運”を見せるなど、チームの大きな戦力となっている。一方で直近3登板は7月14日の日本ハム戦、同31日の楽天戦、そして8月7日のロッテ戦と、登板間隔が空くことも増えてきた。投げたくても投げられない日々を、どう受け止めてきたのか。
「まあ投げたい気持ちはもちろんありますけど、チームの勝利が最優先なので。自分も勝っているところで投げさせたい、任せたいと思われるような投手になりたいなという気持ちが強いですね。投げられないという思いよりは。そこは自分の実力なので」
チームの状態がいいことは誰の目からも明らかだ。必然的に勝ちパターンのリリーフ陣に登板が集中し、ビハインドの展開で登場する投手の登板は限られてくる。強いチームの“ジレンマ”ともいえる状況でも、自らの役割を見失うことはない。
「負けている場面で投げる投手も絶対に必要なので。そこで絶対に点差を離されないことが大事になってきますし、そこはしっかり自分の仕事にも自覚をもってやらないといけないなと思います」。まずは与えられた職場で結果を残さないことには、信頼を勝ち取ることもできない。
登板機会が少なくなっている投手が抱えるもどかしさは、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)も当然理解している。「投げたくても投げられないメンバーはいっぱいいるわけなので。できる限り登板させたいと思っていますけど、難しい部分はありますよね」。
1軍の最優先事項がチームの勝利であることは変わらない。「そこがぶれちゃダメなんです。それを崩してまで誰かを使うとかいうのは僕は考えていない」と倉野コーチも強調する。その一方で「正直な話、(チームが)勝っても自分が活躍してなかったらうれしくないですからね。それは僕も選手だったからよく分かるんですよ」と選手に寄り添うことも忘れない。「その気持ちをしっかり胸に秘めてもらって。後は本人次第だと思います」と、高い向上意識を持ち続けることを求めた。
24歳の若さながら、2チーム目で必死に腕を振り続けている長谷川も、“プロの世界”を重々承知している。「試合をやっていく中でも、(首脳陣から)使ってやりたいと思ってもらっていることは感じるので。自分の出番が来た時に、その期待にしっかり応えたいという感じですね」。現状に嘆くよりも、自らの力を高める。その思いさえあれば、登板機会はおのずと増えていくはずだ。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)