嶺井獲得で気づいた自分の危うい立場 開幕1軍入りは海野にとって最大の“逆襲”

ソフトバンク・海野隆司【写真:竹村岳】
ソフトバンク・海野隆司【写真:竹村岳】

開幕は捕手3人制…昨季47試合出場の海野は“逆転”での開幕1軍入りへ

 開幕1軍の陣容が見えてきた。オープン戦が終わり、谷川原健太捕手ら5選手が2軍降格となった。1軍に残った捕手陣は甲斐拓也捕手、嶺井博希捕手に加えて、海野隆司捕手。開幕は3人制で迎えることになりそうだ。甲斐はWBC日本代表に選出され、オープン戦での出場はなかった。海野は競争の中で7試合出場し打率.143だったが、2年連続で開幕1軍入りをつかむ位置にいる。

 3年目だった昨季、47試合に出場した。今季こそ甲斐との競争相手として、同じスタートラインからレギュラーを狙っていくつもりだった。しかし、オフになるとDeNAから国内FA権を行使した嶺井が加入。強力なライバルが増えただけではなく、今年の春季キャンプではB組スタートとなった。飛躍の年にするつもりが、“試練”ばかりが海野を襲った。どんな心境でここまでを過ごしてきたのか。

「去年は1軍にいられる立場ではあったので、嶺井さんも去年はいなかったので。自分の中でも危機感はありましたけど、結果を出さないと落とされるというか、そういう危機感はなかった。今年はそういう(1軍にいられないかもしれない)危機感はあります。(キャンプのB組スタートは)悔しいとめちゃくちゃ思いました。やっぱりこの立場なんだな……って思いました、自分の中で」

 プロ野球選手としての現実を突きつけられ、まだまだ実力不足であることを感じた。ファームで心掛けてきたのは“凡事徹底”だ。「凡ミスはしないように。悪送球がダメな時にしてしまうとか」。カバーリングや送球1つの精度など、背伸びするわけではなく、地に足をつけて日々を過ごしてきた。4軍戦にも出場する中で、モチベーションを失わなかったのは海野なりの“プロ意識”そのものだ。

「腐るっていう考え方はなくて、こういう時こそ行動1つもそうですけど、1軍では元気なのに2軍だと元気じゃない、とか。1軍では必死なのに、2軍では必死にやらないとか。そういうのは見せないようにしていました。だから練習の中で凡ミスとか、気の抜けたプレーはしないようにしていました」

 明るいキャラクターも持ち味だからこそ、自分の“居場所”によってスタイルを変えたくなかった。3月16日から1軍本隊に合流。開幕も甲斐、嶺井とともに右投げ右打ちの捕手が1軍に3人が揃う。自分だけの色を出すことに「考えないようにはしている」とした上で「捕手は守りなのかなと思うので。守れれば、1年間残れる。『ここはあいつに任せれば大丈夫』と思われると思うので」とこだわる。

 アマチュア時代から、高い壁を超えていく野球人生だった。岡山・関西高に入学した際、チームの正捕手は3年生ではなく1学年上の2年生の先輩だった。「1年生から試合に出たかった」という海野にとっては一番のライバル。重ねた努力で、2年春に初めて背番号「2」をもらった。東海大に進学してからも同じ。「1学年上に、1年生からバリバリ、レギュラーみたいな感じで出ていた人がいた」。身近な先輩を超えようとすることは何度も経験したから、海野が下を向くことはない。

 絶対に忘れない悔しさを胸に今季に飛び込む。昨年10月1日の西武戦(ベルーナドーム)、勝てば優勝という状況で山川にサヨナラ2ランを許した。被弾した藤井とともにグラウンドで涙を流し「野球であんなに泣いたことないです」。次戦でも敗れ、オリックスに逆転優勝をさらわれた。2023年に向けて、力強くこう言う。「守備ってこんなに大事なんだって思いました。あの悔しさは、どんなことがあっても忘れないです」。

(竹村岳 / Gaku Takemura)