登板直前まで病床の妻を気遣い電話 日本記録の裏で…壮絶だったサファテの2017年

元ソフトバンク・デニス・サファテ氏【写真:藤浦一都】
元ソフトバンク・デニス・サファテ氏【写真:藤浦一都】

山田通訳の連載第2回…“ホークス愛”の強かった選手に即答「一番はサファテ」

 ソフトバンクの山田雄大チーフ通訳は、ホークスに入団して17年目を迎えた。英語圏で50人以上の外国人選手と心を通わせてきた中で、“ホークス愛”が強かった選手を問われ、即答した。「サファテですかね、一番は」。デニス・サファテ――。今もホークスファンの記憶に鮮明に残っている「キング・オブ・クローザー」の名前だ。

 サファテは2014年からホークスでプレー。2017年には54セーブの日本記録を打ち立てた。66試合に登板して防御率1.09と圧倒的な成績を残し、リーグMVP、正力松太郎賞にも輝いた。名実ともに球史に足跡を残したが、その裏には壮絶な戦いがあった。今だからこそ、山田通訳の口から明かされる真実とは――。

「2017年は奥さんが病気で……という姿もずっと見ていましたし『(米国に)帰ったら?』という話も何度もしました。あそこで見ていた人にしかわからないものがありますし、あれは壮絶だったと思います。ずっと電話をしていました、球場に来てから。試合中でも、ブルペンに行くまでの6回くらいまでは話していて、電話を切って、肩を作って。試合で投げて、終わってちょっとしたらまた電話をして。そんな姿を見ていました」

 この年、チームはシーズンで94勝を挙げリーグ優勝を果たした。DeNAとの日本シリーズ第6戦でサファテが3イニングを投げた姿は、今もホークスの財産として記憶に残っている。一番隣で見守っていた山田通訳に「壮絶」と言わせるほどの日々の中で「奥さんもなかなか睡眠が取れなかったりして起きている時間が長かったみたいです。時差もあったんですけど、サファテも大して寝ていなかったんじゃないのかな」。1人の夫であり、そしてプロ野球選手であり続けた。

 しかし、心配させるような姿は一切見せない。自分の状況にも、接する相手にも左右されることなく、毅然とした態度でマウンドに立ち続けた。「いつでも彼は彼なんです。自分が投げる時でも周りに『静かにしろ』とか言わないし、ぎりぎりまで冗談とか言ったり。投げる前にオナラもしたり(笑)」。山田通訳は笑いながら、一塁ベンチ前を指差して「この辺から表情が変わるんです」。オンとオフを切り替え、ホークスのために腕を振った。

 どんな瞬間も、家族のため、そしてホークスのために捧げる。それがサファテの生き方だった。結果的に、2021年シーズンを最後に現役を引退したが、その時も妻の第4子妊娠がキッカケとなった。今は米国で第2の人生を歩んでいる。「人間的にもすごかったですよね。学ぶことは本当に多かったです。特にサファテとはいろんなことがあったので」と、過ごした日々は山田通訳の財産だ。

 また、プロ野球選手として“プロ意識”の高かった選手に「年数は短いですけど、(ニック・)マルティネスと(マット・)ムーアですね。(デニス・)ホールトンもオンとオフがハッキリしていました」と名前を挙げた。ホークスを愛し、ホークスに愛される。そんな助っ人たちに助けられて、ホークスは常勝軍団を築き上げてきたのだ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)